滝里ダム運用が下流河川の物理環境および水生生物に与える影響

書誌事項

タイトル別名
  • Influences of Takisato dam operation on physical environment and aquatic animals in downstream
  • タキサト ダム ウンヨウ ガ カリュウ カセン ノ ブツリ カンキョウ オヨビ スイセイ セイブツ ニ アタエル エイキョウ

この論文をさがす

説明

本研究は,空知支庁管内石狩川支流空知川に建設された滝里ダムにおいて,ダム運用前後の下流河川の物理環境および水生生物の変化を把握し,その変化様式から相互の関連性を考察することを目的とした.本研究ではBACIデザインを適用し,運用前(Before : 1998年)および運用後(After : 1999,2000,2001年)に,滝里ダム運用の影響がおよばない上流域(Control : コントロール区)および運用により減水が生じるダム下流域(Impact : 流況変化区)において各年で時間的な反復調査を実施した.運用前の調査区域は,既存のダムや頭首工の影響で3倍以上の昼夜の流量変動(約20-80m3/sec)がみられたが,滝里ダム運用後にはダム下流の流況変化区の流量が一律9m3/secへと変化した.これら流量の一律減少に伴い,流況改変区への物理環境にも連動した変化が生じ,河床への土砂堆積,流速の減少,瀬·淵·砂礫州の明確化,水際の緩流速域および抽水植物群落の分布域拡大等が確認された.水生生物の変化も流量の減少と連動して出現し,イバラトミヨの個体数の増加および底生動物の多様度指数の減少が確認された.さらに,このような水生生物の変化は,最大水深,水際の緩流速域および抽水植生帯の規模と有意な相関関係を示した.以上の結果より,滝里ダム運用による流量の減少が流況変化区の物理環境を変化させ,それに伴い水生生物群集構造が影響をうけたことが示唆された.本研究では,ダム下流区域の既存研究で報告されているような河床の粗粒化およびそれに適応した陸上植物の分布域拡大は確認されなかった.以上の理由としては,流況変化区に設定した調査位置が,滝里ダムより約11km下流に立地する発電用ダムの満水位時の水位影響範囲に入り,滝里ダム運用後に生じた流量,流速の減少により,発電用ダム貯水池の堆砂および流砂沈降の範囲を上流に拡大させたことが考えられた.ダム運用後の流況変化区における底生動物の多様度指数の減少には,調査地点ごとでは違いがみられ,河道の流心部および水際部では顕著に減少したが,瀬部では変化がみられなかった.以上の瀬部における群集構造の多様性の保持は,流量の減少に伴い出現した砂礫州が瀬部の水面幅を縮め,単位水面幅あたりの流量や流速を運用前程度に維持させたことに起因していると考えられた.本研究では,時間的反復を加味したBACIデザインによる影響評価手法を導入したが,デザインを満たすためには,評価対象生物の現存量の時間的な変動を把握できるような繰り返し調査が必要である.従って,限られた原資の中で事業評価を行なう場合,評価対象生物群の選定,およびその挙動に併せた調査頻度の見極めが重要である.

収録刊行物

被引用文献 (4)*注記

もっと見る

参考文献 (113)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ