臨床倫理学におけるカズイストリの可能性

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  • 服部 健司
    群馬大学大学院医学系研究科医学哲学・倫理学分野

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タイトル別名
  • Probable potentiality of casuistry in clinical ethics

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抄録

カズイストリの理念、歴史、方法論を概括したのち、カズイストリに向けられた諸批判を瞥見しながら、臨床倫理学の方法論としてのカズイストリの可能性と制約、そして課題を探る。カズイストリは、高次の原理や倫理学理論の演繹によらずに、こみいった倫理問題をかかえた個々のケースに対して、人間的な経験と生の細部に対する理解と修辞学的推論とによって、健全な道徳的判断を下そうとする実践的方法である。臨床現場における個々のケースに正面から向き合おうとする点は評価すべきであるが、カズイストリによっては、絶対的、普遍的な解決は望めず、せいぜい蓋然的で暫定的な解決にしかたどりつけないという自覚をカズイストが持っていた点はおさえられなければならない。本稿では先行研究において提示された諸批判を点検し、そのうちいくつかは反駁しうることを示す。しかし、典型的ケースを措定しその系列を編み上げて諸ケースから成る幾何学的図絵を描くその過程が不透明で、バイアスや恣意性が入りこまざるをえないとの批判は妥当である。さらに本稿では以下の三点を問題にする。カズイストリの唱道者であるジョンセンは何故、カズイストリの全工程からすれば単に部分的段階でしかないはずの四分割法のみをもってしてあたかも臨床ケースの倫理問題を解くことができるかのような論述を繰り返しているのか。また、そこから判断を導出するはるか以前に四分割表の作成段階つまりケースを読み解釈する上ですでに不可欠な解釈はどこから来るのか。ケースごとの諸事情を重視することの意義を力説する一方で、カズイストリが文脈主義から峻別されるべきであり、それは可能だとジョンセンが言い張るのは何故なのか。

収録刊行物

  • 生命倫理

    生命倫理 21 (1), 52-60, 2011

    日本生命倫理学会

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