日本における造礁性イシサンゴ類の同定と現状とその分類学的問題点

  • 深見 裕伸
    宮崎大学農学部海洋生物環境学科
  • 立川 浩之
    千葉県立中央博物館
  • 鈴木 豪
    独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所石垣支所
  • 永田 俊輔
    財団法人海洋博覧会記念公園管理財団総合研究センター
  • 杉原 薫
    独立行政法人国立環境研究所地球環境研究センター

書誌事項

タイトル別名
  • Current status and problems with the identification and taxonomy of zooxanthellate scleractinian corals in Japan
  • 日本における造礁性イシサンゴ類の同定の現状とその分類学的問題点
  • ニホン ニ オケル ゾウショウセイ イシサンゴルイ ノ ドウテイ ノ ゲンジョウ ト ソノ ブンルイガクテキ モンダイテン

この論文をさがす

抄録

造礁サンゴの分類は,個体の形状やそれらの群体上での配列様式といった,骨格の形態的特徴の違いに基づいて行われる。しかし,形質の少なさ,多型や著しい種内変異,そして生息環境への可塑的性質が,造礁サンゴの骨格形態の定量化,それに基づく記載と類似する種や属間での比較を困難なものとしている。近年,生時の特徴を重視した造礁サンゴの図鑑やフィールドガイドが普及したおかげで,日本においても造礁サンゴに関する一般的な知見が広まった。しかし,それと同時に,骨格形態の観察なしに安易な種同定を行う調査者や研究者が増えてきた。しかも,これらの出版物の中には,国際動物命名規約上の深刻な問題点を含んでいるものもあり,造礁サンゴの学名の安定性をも揺るがしつつある。最近では,種同定の統一基準が取れなくなり,既存研究との正確な比較ができなくなる事態も生じている。その一方で,造礁サンゴの分子系統解析の進展が,近縁とされる分類群間での従来の骨格形態に基づく分類方法の再検討を可能にさせつつある。しかし,これらの分子系統学的研究の中には,誤った種同定のもとで行われている可能性もあるので注意しなければならない。今後,より再現性そして汎用性の高い造礁サンゴの分類体系を再構築するためには,従来の分類形質とされてきた骨格形態を計測し,骨格形態が特に類似している種間でのそれらの定量的な比較をまず行うべきである。次に,それらの解析結果と調和的な骨格の表面形態や隔壁の内部構造といった新たな形質を探索する必要がある。また,分子系統解析を行う際は,誤った種同定が行われていた場合に備えて,対象種の軟体部から抽出した遺伝子試料だけでなく,それに対応した骨格標本も保存しておくことに心がけなければならない。

収録刊行物

被引用文献 (1)*注記

もっと見る

参考文献 (19)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ