糖鎖構造生物学の最前線

DOI
  • 矢木 宏和
    名古屋市立大学大学院薬学研究科
  • 矢木–内海 真穂
    自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター ケンブリッジ大学
  • 加藤 晃一
    名古屋市立大学大学院薬学研究科 自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター お茶の水女子大学糖鎖科学教育研究センター

この論文をさがす

抄録

生体内に存在するタンパク質全種類の約半数は糖鎖修飾を受けているといわれている.糖鎖はタンパク質の溶解性や熱安定性を規定しているだけでなく,タンパク質の機能発現を調節したり,細胞表層における分子認識の標的としてタンパク質の相互作用を媒介するなど多彩な機能を担っていることが明らかとなってきている.さらに,現在臨床の現場で用いられているバイオ医薬品の50%以上は糖タンパク質製剤であり,医薬品としてのタンパク質の効能はそれを修飾する糖鎖に大きく影響を受けている.中でも,分子標的薬としての地位を確立している抗体医薬のエフェクター機能は糖鎖修飾に顕著に依存することが知られている.例えば,免疫グロブリンG(IgG)の糖鎖からフコース残基を取り除くと抗体依存性細胞性細胞障害(antibody―dependent cellular cytotoxicity:ADCC)活性が50~100倍上昇すること,また腎性貧血薬であるエリスロポエチンは,糖鎖の構造や数の違いによりレセプターとの結合親和性や血中半減期が大きく影響を受けることが報告されている.しかしながら,このような生物学的・医学的重要性にもかかわらず,タンパク質を修飾する個々の糖鎖の役割が立体構造の観点から解明された例は極めて少ない.<br>糖鎖の構造情報はゲノムに直接コードされていないため,タンパク質の修飾部位から糖鎖構造を予測することは困難である.また,糖鎖の構造は一般的に不均一であり,分岐や構造異性を有している.加えて,糖鎖はタンパク質などに加えて非常に柔軟性に富んでおり,水溶液中では複数のコンフォマーの間を揺らいでいる.こうした糖鎖構造の不均一性と柔軟性が,伝統的な構造生物学のアプローチを糖タンパク質に適用することを阻んできた.我々は,こうした状況を打破するために,糖タンパク質の動的3次元構造と相互作用を解析するための方法論の開発に取り組んできた.本稿では,我々の研究成果を示しつつ糖鎖構造生物学の現状について紹介したい.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 50 (8), 746-750, 2014

    公益社団法人 日本薬学会

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ