足台への踏み出しによる脊椎彎曲角の変化

  • 松尾 奈々
    医療福祉専門学校緑生館 理学療法学科 西九州大学大学院健康福祉学研究科健康福祉学専攻
  • 村田 伸
    西九州大学 リハビリテーション学部
  • 宮崎 純弥
    目白大学 保健医療学部理学療法学科
  • 甲斐 義浩
    医療福祉専門学校緑生館 理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • Change of Spinal Curvature in Stepping on a Stool
  • アシダイ エ ノ フミダシ ニ ヨル セキツイ ワンキョクカク ノ ヘンカ

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抄録

【目的】腰痛の原因は、不良姿勢によるものがもっとも多く、腰痛と脊椎アライメントの関係についての報告も数多い。腰痛は姿勢と密接な関係にあるため、運動療法と同様に日常生活指導も重要な治療手段である。日常生活指導の際は正しい姿勢や動作を理解しやすい言葉で説明し、対象者の理解を深めることが重要であり、腰痛の予防・再発予防に有効である。そのなかで、腰痛症患者の立位時の注意として長時間の立位姿勢をとる場合、一側下肢を足台の上に置くことを推奨している。その理由は、立位時に足台を使用することにより腰椎前彎を減少させ、椎間板内圧に変化を与えるとされているが、足台の高さについて検討した研究は見当たらない。そこで本研究は、健常成人女性を対象に高さの異なる足台を使用した際の胸椎後彎角および腰椎前彎角の変化について比較検討した。<BR>【方法】某医療系大学に所属する健常成人女性13名(平均年齢21.7±3.8歳、平均体重48.3±5.1kg、平均身長159±2.9cm)を対象とした。測定は、視線を正面に向けた安静立位姿勢を基準に、裸足にて一歩前方に踏み出した姿勢と10cm、20cm、30cmの足台にそれぞれ片脚を乗せた姿勢の胸椎後彎角および腰椎前彎角を測定した。胸椎後彎角および腰椎前彎角は、インデックス社製のスパイナルマウスを用いて測定した。測定方法は、被験者の第7頸椎から第3仙椎仙骨裂孔までをセンサー部を移動させて測定した。今回分析に使用したのは、第1胸椎から第12胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和である胸椎後彎角、第1腰椎から第5腰椎までの上下椎体間がなす角度の総和である腰椎前彎角であり、後彎角を正、前彎角を負で表記した。統計処理は、反復測定分散分析ならびにScheffeの多重比較検定を行った。なお、解析にはStatView5.0を用い、統計的有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容、得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと、および個人情報の漏洩に注意することについて説明し、理解を得た上で協力を求めた。<BR>【結果】腰椎前彎角は安静立位では-23.0±6.5°、前方踏み出しでは-22.5±6.9°、10cm足台では-20.1±5.2°、20cm足台では-18.5±6.9°、30cm足台では-17.9±6.4°であった。腰椎前彎角の有意な減少が認められたのは、安静立位と20cm足台(p<0.05)・30cm足台(p<0.01)、前方踏み出しと20cm足台(p<0.05)・30cm足台(p<0.01)であった。また、安静立位と前方踏み出し・10cm足台、前方踏み出しと10cm足台との間に有意な差は認められなかった。一方、胸椎後彎角は安静立位では30.4±12.8°、前方踏み出しでは30.7±12.8°、10cm足台では28.9±11.1°、20cm足台では28.7±12.8°、30cm足台では28.4±12.9°であった。胸椎後彎角の各測定項目を比較すると、各測定項目間に有意差は認められなかった。<BR>【考察】本研究の結果、20cm以上の高さがある足台に片脚を乗せることで、腰椎前彎角が有意に減少することが確認された。一方、胸椎後彎角は足台使用との間に有意な変化は認められなかった。足台使用による腰椎前彎角の減少は、立位で腰椎上の体幹を不動にした姿勢をとらせることで、股関節伸筋と腹筋群が骨盤を後傾させるフォース・カップルの作用が生じたと考える。また、Kaltenbornの腰椎モビリゼーションでは、股関節を60°程度屈曲することで、腰椎の彎曲を少なくするとしている。このことは、今回、高さの異なる足台を使用して脊椎彎曲角の測定を行なったが、先に述べたアライメント変化と同様の現象が起きていると仮定すると、20cmの足台へ片脚を乗せることが、腰椎前彎を引き起こす股関節屈曲角度の目安となるのかもしれない。一方、胸椎後彎角は足台に片脚を乗せることによる有意な変化は認められなかった。これは、胸椎関節は胸郭による安定度が高い構造のため、可動域が比較的小さいことが考えられる。また、今回の測定は、被験者に視線を正面に向けた安静立位姿勢を基準としていることで、胸椎後彎角に与える影響が少なかったのかもしれない。以上の結果より、立位姿勢で高さ20cmの足台を使用することは、腰椎前彎角の有意な減少を引き起こし、腰部への負担を軽減することが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、先行研究では明らかにされていない腰椎前彎角を減少させるために必要な足台の高さを特定している。このことは、理学療法の対象となることの多い腰痛患者の効果的なセルフケアの指標を示した点で臨床的意義が高い。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E4P3190-E4P3190, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

参考文献 (18)*注記

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