米国における危機対応に従事する労働者の安全衛生管理体制

  • 豊田 裕之
    産業医科大学産業医実務研修センター
  • 久保 達彦
    産業医科大学医学部公衆衛生学
  • 森 晃爾
    産業医科大学産業医実務研修センター 産業医科大学産業生態科学研究所産業保健経営学

書誌事項

タイトル別名
  • Occupational Safety and Health System for Workers Engaged in Emergency Response Operations in the USA
  • ベイコク ニ オケル キキ タイオウ ニ ジュウジ スル ロウドウシャ ノ アンゼン エイセイ カンリ タイセイ

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抄録

<p>目的:危機対応体制における労働安全衛生機能の位置づけに関する米国の現状を把握するために,米国政府関係機関を対象としたインタビュー調査および文献調査による情報収集を行った.方法:米国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency;FEMA)と国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health;NIOSH)を訪問しインタビュー調査を実施した.併せて,米国労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration;OSHA)から,今回の目的に合わせて用意された関連資料を入手した.また.インタビュー調査の前後に文献調査および訪問機関のインターネット公開情報の収集を行った.結果:米国には,国内の諸機関が共通した枠組みで危機対応に連携して臨むためのシステムである国家危機管理システム(National Incident Management System:NIMS)が構築されていた.また,連邦レベルで対処する危機において各政府機関が連携した対応を可能とする枠組みである国家危機対応枠組(National Response Framework;NRF)が基盤となった危機対応体制が存在していた.NIMSの具体的な危機対応体制である現場指揮システム(Incident Command System:ICS)の中で,指揮者に直接進言する指揮担当官(Command Staff)として安全監督官(Safety Officer)が明確に位置付けられていた.ICSの中で役割を果たすスタッフは,諸トレーニング修了等の要件を満たすことが求められており,Safety Officerについても,体系的な研修修了に加えて実務経験が必要とされていた.また,米国の危機対応体制は,All-Hazardsモデルと呼ばれ,危機の種類にかかわらず共通した体制で臨むことが基本となっていた.一方,危機対応に従事する労働者の安全衛生に関して,NRFを基本として,危機発生時に支援業務を一元的に調整する役割を果たす行政組織であるFEMAと労働者の安全衛生に関する組織であるOSHAおよびNIOSHが連携を図る体制が構築されていた.これらの組織の中には,多数の認定インダストリアル・ハイジニスト(Certificated Industrial Hygienist;CIH)が在籍し,専門的な機能を果たしていた.特にNIOSHは,近年の危機発生時の労働安全衛生対策において多様な実践活動を行っていた.考察:米国の危機対応体制には,対応者の安全と健康を確保するための様々な特徴があり,それらの有効性は体系的な研修と経験を有する人材によって裏付けされていた.日本の危機管理体制における労働安全衛生機能を考えるうえで,重要な視点であると考えられた.</p>

収録刊行物

  • 産業衛生学雑誌

    産業衛生学雑誌 58 (6), 260-270, 2016

    公益社団法人 日本産業衛生学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (4)*注記

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