多言語間の音声知覚における母語(L1)の役割 : 英語,日本語およびタイ語話者による語末閉鎖音識別の比較

  • 塚田 公子
    オレゴン大学東アジア言語文学部
  • 石原 俊一
    オーストラリア国立大学アジア・太平洋カレッジアジア研究学部

書誌事項

タイトル別名
  • The Effect of First Language (L1) in Cross-Language Speech Perception: Comparison of Word-Final Stop Discrimination by English, Japanese and Thai Listeners

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抄録

本研究では英語およびタイ語の母語話者によるおのおのの言語の語末に起こる無声閉鎖音対立(/p/-/t/,/p/-/k/,/t/-/k/)の識別を調査した先行研究(塚田2006)を延長し,新たに日本語母語話者を加え,各グループの識別能力について報告する。語末閉鎖音は被験者の母語に応じて音声的に著しく異なった現れ方をする。日本語では,語末に閉鎖子音は起こらないが,日本人被験者は英語(タイ語においては別)の閉鎖子音対立を正確に識別することができた。これは,成人になってからでも,母語にない外国語の音声対立の学習が可能であることを示すものである。英語話者は母語で解放のない語末閉鎖子音が起こるにもかかわらず,タイ語の刺激音識別の際,タイ語話者の識別能力に及ばなかった。しかし,日本人グループよりはタイ語の識別能力が高かった。これは母語において(音韻規則に違反しない)解放のない語末閉鎖音を知覚しているという体験によるものと考えられる。そのため,母語で同様の知覚体験を持たない日本人よりも,タイ語の閉鎖音対立に必要な音声情報を効率的に得ることができると推測される。本研究は多言語間の音声知覚における母語の役割をよりよく理解するためには,複数の異なった母語話者のグループを体系的に比較することの重要性を強調するものである。

収録刊行物

  • 音声研究

    音声研究 11 (1), 82-92, 2007

    日本音声学会

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