アルコールによる膵虚血と小葉内線維化機序について

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タイトル別名
  • ETHANOL-INDUCED ISCHEMIA IN PANCREAS AND A MECHANISM OF INTRALOBULAR FIBROSIS
  • —Especially the pathophysiological influence on active oxygens generating during recirculation in the post-ischemic stage—
  • ―特に血行再開時に産生される活性酸素の病理生理学的影響―

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抄録

アルコールは膵虚血を惹起することが知られている.今回覚醒家兎を用い, アルコール投与後の膵血流の変化を病理形態像および生化学的変化との関係で検討した..血流測定には水素クリアランス・Height-Area法を用い, コンピュータによる自動計測を行った.また水素電極を予め膵内に挿入し, 覚醒後, 無麻酔にて血流をモニタした.家兎の胃内に40%エタノールを15ml/kg注入したものを多量群 (n=21) , 2.5ml/kgを少量群 (n=6) とした.また経時的に膵血流, 血中アミラーゼ・リパーゼ・ビタミンE・過酸化脂質, 膵組織中アミラーゼ・リパーゼ・活性酸素・RNA/DNA比を測定し, 光顕および電顕固定を行った.投与期間は1回投与, 連日連回投与4週まで, および同8週までの3群をもうけた.1同投与後少量群では膵血流, 組織アミラーゼ・リパーゼ・RNA/DNA比が上昇し, 多量群ではいずれも低下した.したがって膵はアルコールの投与量に関し二相性の反応を示した.また多量群では, アルコール投与後30分から45分で膵は著しい虚血を示すが, 90分から血行が回復し始め, 120分でほぼ回復した.虚血期に膵は, 粗面小胞体の拡張およびミトコンドリアの膨化を伴うが, その程度は血行再開時にさらに著しくひどくなり, 腺房細胞の基底膜側でミトコンドリアの崩壊による空胞化が進行した.なおこの変化はその後もしばらく持続する傾向にあった.一方血行再開時に, ラジカル捕捉剤であるビタミンEとコレステロールの低下が目立ち, 反対に活性酸素ラジカルと過酸化脂質の上昇が認められた.したがって虚血後の再流時に, 膵にラジカル過酸化傾向が生じていることが予想され, ミトコンドリアの崩壊はこの活性酸素ラジカルによる障害と思われた.多量投与ではアルコールの投与同数が増すにつれ, 膵組織中のRNA/DNA比は低下し, 過酸化脂質は上昇する傾向にあった.組織学的には腺房周囲のコラーゲンが次第に束ねられ太くなっていき, 8週投与したものでは電顕的にも明らかにコラーゲン線維の成熟が認められた.本実験系の線維化はいずれも壊死を伴わなず, したがって1次的線維化と判断された.活性酸素ラジカルは幼若コラーゲンの重合を促進すると考えられるので, 腺房細胞周囲の毛細血管網にラジカル環境が波及するにつれ, 血管周囲のコラーゲンの成熟が加速され, 腺房周囲に細線維化状態が発現されると考えられる.慢性アルコール投与状態下におけるコラーゲン線維の重合・成熟・積過程, および1次的線維化の機序には, これら虚血に起因するとみられる活性酸素ラジカルの関与が示唆され, 本実験系による線維化は主にこのコラーゲンの蓄積によるものと推定された.

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