窪寺俊之著「スピリチュアルケア学序説」, B5判, 148頁, 定価2,730円, 2004年, 三輪書店

DOI

抄録

昨今, ターミナルケアや緩和医療など医療の中で, スピリチュアルペインが取り上げられている. また, そのケアが, 大きな課題とされるようになっている. このような時期に, この書が発刊されたことは, まことにタイムリーである. ひとは, 死の危機に直面したとき, いろいろな意味で辛い思いをする. 「なぜ, わたしが」「なぜ, こんな不幸なことが」などである. このような魂の奥底から発せられる問いかけにどのように答えるのか. 本書は, 医療現場で求められているスピリチュアルケアの本質や特徴を明らかにし, そのケアの実践への道を示すことを目的としている. そればかりではなく, スピリチュアルケアを学問の対象として研究する「スピリチュアルケア学」を構築しようとする意欲的な書である. 著者によれば, スピリチュアリティの概念には, 純粋な宗教学, 神学, 心理学, 精神医学, 社会学的な側面があるという. そのため, 明確に定義することは困難であるとしている. しかし, 臨床の実践家である著者らしく, 『「ケア」という人間学的な立場に立って, 心理学的事実に基づいて, 究極的な窮地に立ったときに「存在の枠組み」と「自己同一性」を超越的なものや究極的なものに求める機能』と定義している. 長年にわたるスピリチュアルケアの臨床経験から, スピリチュアリティは, 生得的に人間に備わっているもので, 死という究極的な危機を目前にしたとき, 自然にその人の中に現れてくるという. その危機とは, 行き来することのできないこの世とあの世との間で, その存在が危うくなったときである. また, 研究のマテリアルとして, 実際に死に瀕した人の闘病日記を紹介している. しかも, その多くは, 宗教とは無関係, あるいは, 宗教を否定した人々の残したものである. その中に, いかに多くの宗教的な用語が出てきているかを指摘し, 人は重いスピリチュアルペインに遭遇したとき, 自らの超越的, 絶対的な存在を自らの中に作り出すのであるとしている. また, スピリチュアルケアに関する先行研究から, スピリチュアリティは, 宗教と近いものではあるが, 「人問のスピリチュアリティの性質は, 組織としての宗教よりは少なくとも大きなものである」と紹介している. われわれの臨床の中でも, 身体の痛みや種々の愁訴の中に, スピリチュアルペインを見出すことがある. 精神的な死に瀕しているかのようにみえる. 摂食障害患者のかたくなな食行動異常やアクティングアウトの背景にその存在を感じることもしばしばである. いろいろな意味で, ケアを提供する人をケア, プロバイダーというとすれば, 人は, なぜ, ケア, プロバイダーとなろうとするのか. それは, スピリチュアリティと関係しているのではないか. 同じ著者に『スピリチュアルケア入門』があるが, 本書では, さらに進めて, スピリチュアルアセスメント, 具体的ケア, 対話の構造, 患者とプロバイダーの距離など, 実践面の理論的な背景を明らかにしている. 本書は, タイトルは難しそうであるが, 決して難解ではなく, 臨床に即したものとなっている. そういう意味でも, 緩和ケアやターミナルケアを志す人ばかりでなく, 医療, 看護, 介護などケアに関わるすべての人に, 一度は読んでおいていただきたい必読の書である.

収録刊行物

  • 心身医学

    心身医学 45 (1), 66-, 2005

    一般社団法人 日本心身医学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679866320896
  • NII論文ID
    110001262227
  • DOI
    10.15064/jjpm.45.1_66
  • ISSN
    21895996
    03850307
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ