内リンパ嚢高濃度ステロイド挿入術と血中内耳関連ホルモン動態

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  • Changes in Plasma Inner Ear Hormones after Endolymphatic Sac Drainage and Steroid-instillation Surgery (EDSS)

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抄録

(目的) 内耳には水代謝, 電解質代謝に関する多数のホルモンおよびその受容体が存在しており, 内リンパ組成の恒常性制御機構に関与していると考えられている.今回我々は, 以前から当施設で施行している内リンパ嚢高濃度ステロイド挿入術 (endolymphatic sac drainage & steroid-instillation surgery, 以後EDSSと略す) の治効機序を明らかにするため, EDSSが血中内耳関連ホルモン動態に与える影響について検討した.さらに, 内耳関連ホルモン動態と手術成績との相関性も併せて検討した.<BR> (対象と方法) EDSSを施行したのち12カ月以上の長期経過を観察し得た難治性メニエール病33例を対象とした.まず術前発作問欲期および術後2週間, 6カ月, 1年の血中抗利尿ホルモン (ADH), アルドステロン, 心房ナトリウム利尿ペプチド (ANP), 脳ナトリウム利尿ペプチド (BNP) 値を測定し, 血中内耳関連ホルモン値の術前から術後長期にかけての推移を検索した.さらに, 血中内耳関連ホルモン動態と手術のめまいおよび聴力に対する成績, グリセロール・テストとの関係を検討した.対照として, 慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎の乳突洞削開術前後の血中ホルモン値の変動を検索した.<BR> (結果) 本術式の長期成績を示すと, めまい発作完全制御率 (術後観察期間内で定型的めまい発作なしの症例数/全手術症例数) は79%(26/33), 聴力改善率 (術後観察期間内で10dB以上聴力が改善した症例数/全手術症例数) は58%(19/33) であった.EDSS後の血中ADH値の推移は, 術前に比して有意に減少した.一方, 慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎の乳突洞削開術前後の血中ADH値は減少傾向のあるものの有意差は認められなかった.術後めまい発作完全抑制かつ10dB以上の聴力改善例をEDSS著効例と考えると, 著効例では術後6カ月および1年の血中ADHが低値を示す傾向が認められた.術前グリセロール・テスト陽性例のうち, 術後陰性化例では術後2週と6カ月の血中ADH比が有意に減少した.<BR> (考察) 乳突洞削開術により血中ADH値は有意には減少しないことから, EDSSの脳硬膜露出, 内リンパ嚢開放, 高濃度ステロイド嚢内挿入操作が血中ADH値を減少させる可能性が示唆された.基礎実験において, 内耳圧変化が直接血中ADH値に影響を与えること, 内耳前庭器からの情報が視床下部に入力することが報告されている.また, ステロイドが直接および間接的に血中ADHの発現を抑制すること, ADH受容体の発現を調節する可能性があることが報告されている.さらに, EDSSの手術成績が従来の内リンパ嚢開放術に比して良好であることを考え合わせると, EDSSの高濃度ステロイド嚢内挿入操作が血中ADH値を減少させ内耳機能改善させることに対して少なくとも部分的に貢献している可能性が示唆された.またEDSS後, 血中ADHが長期に低値を示す症例では, 長期手術成績が良好であり内リンパ水腫も改善すると考えられた.

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