1990年代以降の豪州における肉用牛・牛肉生産の立地変動 : 日本の牛肉輸入自由化に絡めて

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  • Changes in Location of Beef and Cattle Production in Australia from 1990s : Effect of Japan's Beef Trade Liberalization
  • 1990ネンダイ イコウ ノ ゴウシュウ ニ オケル ニクヨウギュウ ・ ギュウニク セイサン ノ リッチ ヘンドウ : ニホン ノ ギュウニク ユニュウ ジユウカ ニ カラメテ

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抄録

経済のグローバル化に伴い農産物貿易が一層拡大・多様化している現在,世界有数の農産物輸入国である日本は,これまでどのような政治経済的な役割を果たし,また,輸入相手国にどのような影響を及ぼしてきたのか.本稿では,このような観点から1991年の輸入自由化を契機に急増した豪州からの牛肉輸入を取り上げ,豪州における肉用牛・牛肉生産の立地変動を分析した.その結果,以下のことが明らかになった.まず,対日輸出の増加は減退基調にあった豪州の肉用牛・牛肉生産を回復させると同時に,日本市場を意識した穀物肥育牛肉の生産を本格化させ,そのためのフィードロット(FL)の建設が相次いだ.また,穀物肥育牛肉の生産増は,飼料穀物の増産や霜降り肉の生産に適した肉用牛品種の開発を促し,それは穀物生産や温帯種肉用牛の飼養に適した気候下にあるNSW州,中でも内陸部での生産力の拡大につながった.しかし,1990年代後半に入ると日本の牛肉需要は停滞かつ低価格指向を強めたため,牧草肥育牛肉の輸入が増加した.そこで豪州では,穀物肥育牛肉の代替市場として韓国や豪州国内市場が注目されるようになった.しかし,非日本市場で求められたのは霜降り度よりは柔らかさを重視した短期肥育の牛肉であったため,FLは増体効率のよい熱帯種肉用牛も多いQLD州南東部に集中するようになった.また,この時期には米国への牧草肥育牛肉の輸出が回復し,QLDの放牧牛の需要が高まったため,食肉加工場も輸出港であるブリズベンへの近接性と相まってQLD南東部に集中するようになった.このように,日本の輸入が豪州に及ぼした影響は1990年代後半以降には急速に減退したが,それまでに浸透したFL経営のノウハウや肉用牛品種の開発などは,豪州が多様なニーズに応えられる牛肉輸出国になる契機になったし,穀物肥育牛肉がプレミアムメニューとして豪州国内でも消費されるようになったことは,対日輸出増がもたらした遺産といえよう.

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