2価金属の長鎖脂肪酸塩

抄録

マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム,亜鉛,カドミウム,水銀,鉛,マンガン,ニッケル,コバルト,銅各2価金属のカプリル酸からステアリン酸にわたる飽和直鎖脂肪酸塩およびオレイン酸塩を合成し,その固体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折の測定を行なった。ただしステアリン酸塩を除いて,他の脂肪酸についてはすべての金属の塩をつくって測定したわけではなく,金属の種類により相違は主としてステアリン酸塩について検討した。赤外吸収スペクトルではとくにCOO-逆対称伸縮振動と, 720cm-1付近のCH2横ゆれ振動に着目したが,前者については吸収の位置が周期律表の亜族について比較すると金属の電気陰性度と密接に関係していることに注目した。後者については吸収の位置は金属の種類や炭化水素鎖の長さ,飽和度によってほとんど変化はないが,塩の無水物が多くこの吸収帯が2本に分離し,結晶水をもつ塩が多く1本であることを認めた。これは結晶内の炭化水素鎖の配列の仕方に関係しているという考えもとに結晶水の影響について考察した。またこの吸収が2本にわかれる化合物では多くCOO-逆対称伸縮振動が1本であるという相関関係も見いだした。X線回折の結果は2価金属の飽和脂肪酸塩がいずれもよう結晶性をもつことを認め,その長面間隔と特徴的な短面間隔を計算して,金属の種類による変化,結晶水の有無による相違を検討し,赤外吸収スペクトルとの相関関係について着目した。<br>特殊な構造の塩として脂肪酸銅およびオレイン酸コバルトについて,その固体構造とともに非水溶液の性質を調べた。オレイン酸銅が飽和脂肪酸銅と同じように二量体構造をとることを磁化率の測定から確認し,ステアリン酸銅ならびにオレイン酸銅のピリジンとジオキサン付加物についてはモノピリジネートとジオキサン付加物が会合体構造であるのに,ジピリジネートが単量体構造であることを認めた。これら脂肪酸銅の溶液の測定から,オレイン酸銅のミセルは4個の二量体分子の集合したものであることを明らかにした。オレイン酸コバルトが他の金属の脂肪酸塩と異なってOH基を含む組成をもつことを見いだし,これがその有機溶媒系の粘性に大きな寄与をすることを知った。アルミニウムセッケンとの類似からオレイン酸コバルトもOH基を通じての高分子構造をとると推論した。

収録刊行物

  • 日本化學雜誌

    日本化學雜誌 86 (6), 560-572, 1965

    The Chemical Society of Japan

被引用文献 (8)*注記

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