前頭葉の臨床神経心理学

  • 三村 將
    慶應義塾大学 医学部 精神神経科学教室

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説明

<p>  ヒトの大脳の 1/3 を占める前頭葉は, 多くの神経科学者の関心を引きながら, いまだに解明されていない「謎」の部分が多い。神経心理学的立場からは, 前頭前野の損傷に伴って生じる問題として, 注意の持続や分配・転換の障害, ワーキングメモリや展望記憶を含むさまざまな記憶の障害, 問題解決・遂行機能の障害, 社会的行動障害などが挙げられる。これらの前頭葉損傷に伴う神経心理学的問題に対する認知リハビリテーションの技法としては, 注意障害に対する Attention Process Training や, 前頭葉性記憶障害に対する外的補助を利用した展望記憶の強化が考案されている。健常者のワーキングメモリを向上しうるツールとして, 右頭頂葉に対する磁気刺激実験を紹介し, 左右および前頭-頭頂の連絡に関する脳内ネットワーク仮説について述べた。近年, 話題に上ることの多い遂行機能障害のリハビリテーションについては, 問題解決過程を計画の立案にかかわる側面と, 計画の実行にかかわる側面に分けて考えると理解しやすい。<br>  前頭葉損傷においては, これらの神経心理学的障害以上に, 感情・気分の障害, 強迫症状, 作話, 脱抑制や情動制御の障害, 判断や社会認知の障害といったさまざまな精神症状が問題となる。前頭葉損傷に伴うもっとも対応困難な問題の1 つは, パーソナリティ変化を基盤とした社会的認知ないし社会的行動の障害である。このような問題が生じる背景には, 大きく情動面の抑制障害の問題と, 自分の言動を相手がどう思うかが理解できない問題 (心的推測の問題) とがある。これらの社会的行動障害に対して, うつ病や不安障害に対する認知行動療法的アプローチを援用していく試みも最近ようやく広がりをみせている。</p>

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