生物多様性保全型害虫防除に向けたイネ害虫アカスジカスミカメの主要な越冬場所の解明

  • 堀田 遼
    東京大学大学院 農学生命科学研究科
  • 吉岡 明良
    東京大学大学院 農学生命科学研究科:(現)独立行政法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター生態遺伝情報解析研究室
  • 鷲谷 いづみ
    東京大学大学院 農学生命科学研究科

書誌事項

タイトル別名
  • Examination of the overwintering habitat of a rice pest, Stenotus rubrovittatus : Toward biodiversity-friendly pest management
  • セイブツ タヨウセイ ホゼンガタ ガイチュウ ボウジョ ニ ムケタ イネ ガイチュウ アカスジカスミカメ ノ シュヨウ ナ エットウ バショ ノ カイメイ

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説明

環境保全型稲作に先進的に取り組む宮城県大崎市田尻地域において、イネ害虫アカスジカスミカメStenotus rubrovittatus(以下アカスジ)の重要な越冬場所を検討した。アカスジ密度の最盛期に相当する夏期(8月初旬)と休眠卵の産卵が終了する直前の秋期(10月末)に、アカスジの主要な生息場所とされる牧草地と休耕地33地点において、農地管理の状況とアカスジの密度を調査した。10月末には32地点でアカスジが産卵しうるイネ科・カヤツリグサ科植物の穂を採集し、休眠解除処理を行ってカスミカメ類の休眠卵から孵化する幼虫数を計測した。その結果、夏期・秋期ともに草本植物の刈り取り管理が行われていた地点ではアカスジ成虫が少ないことが明らかにされた。また、イタリアンライグラス(ネズミムギ)、メヒシバ、イヌビエ類、チカラシバの穂からは比較的高い確率(穂の採集地点数に対する孵化地点数の割合がそれぞれ、85.7、42.1、21.7、25%)でアカスジ幼虫と考えられるカスミカメ類の幼虫が認められた。夏期にイタリアンライグラスが優占する牧草地では、秋期にはイタリアンライグラスに加えてメヒシバ、イヌビエ類も生育していた。また夏期のアカスジ密度と休眠卵の孵化数との間に有意な正の相関があることも示された。以上のことから、アカスジの越冬場所としては、冬期に耕起などの撹乱が行われず、夏期には刈り残されたイタリアンライグラスが優占する牧草地が特に重要であることが示唆された。今後、本研究をもとにアカスジの重要な生息・越冬場所を管理することで、農薬に依存しない効果的な害虫防除の立案が可能であると考えられる。

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