河川水辺の国勢調査を保全に活かす―データがもつ課題と研究例

書誌事項

タイトル別名
  • Towards the use of National Census on River Environments data for conservation: issues and a case study
  • カセン ミズベ ノ コクセイ チョウサ オ ホゼン ニ イカス : データ ガ モツ カダイ ト ケンキュウレイ

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抄録

河川を含む淡水生態系の生物多様性は急速に低下しており、その効果的な保全のため、広域スケールでの生物多様性の現状評価と将来予測が求められている。1990年に開始された河川水辺の国勢調査(水国)は、日本で唯一の国土スケールでの河川環境に関する定量調査事業で、日本の河川生物の保全に対する重要性は今後さらに高まることが予想される。そこで本稿では、保全生態学的研究への水国データの効果的な活用を目指して、水国の概要とデータを利用する際に注意すべき課題について解説するとともに、データを活用した研究事例を紹介する。課題は、調査地点、時期といったデータの質に影響を及ぼす「調査手法」に関するものと、研究者がデータを利用する際に直面する「データ整備」に関するものに分けられた。研究事例では、2001年から2005年の水国3巡目で得られた魚類と底生動物のデータを利用した全国スケールの解析を行った。魚類は純淡水性と通し回遊性に分け、底生動物は、水生昆虫類と貝類に分けて種数または分類群数と希少性指標(レッドリストの各カテゴリーに掲載されている種数から算出)を算出し、それぞれの全国的な傾向を検証した。解析の結果、種数と分類群数の全国的な空間分布は、魚類の生活型(純淡水性・通し回遊性)や底生動物の分類群(水生昆虫類・貝類)によって異なることが示された。その一方、各生活型もしくは各分類群の種数または分類群数と希少性指標の分布は空間的に一致する傾向にあり、種数や分類群数の多い地区ほどレッドリスト掲載種が多い傾向にあることが示された。つまり、魚類の生活型や底生動物の分類群によって異なるものの、数多くの種と希少性の高い種の両者を類似した地域で保全できる可能性が示唆された。今後、水国のデータがもつ有効性が広く認識されることで、国土スケールでの生物多様性の変化や将来予測といった保全研究への活用が進み、環境変化に対する河川生物多様性の保全方法などの提言につながることが期待される。

収録刊行物

  • 保全生態学研究

    保全生態学研究 21 (2), 167-180, 2016

    一般社団法人 日本生態学会

被引用文献 (1)*注記

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