日本中南部及び周辺海域より採集されたチビイトマキツムバイ属(新称)(腹足綱:エゾバイ科)の2新種

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  • Two New <i>Calagrassor</i> (Gastropoda: Buccinidae) from Japan and Adjacent Waters
  • Two New Calagrassor (Gastropoda: Buccinidae) from Japan and Adjacent Waters

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抄録

<p>Calagrassor Kantor et al., 2013ヒメイトマキツムバイ属(和名新称)は,沈木を中心とした深海化学合成群集から得られたエゾバイ科サンプルの分子系統学的研究の中で提唱された属グループである。タイプ種はC. aldermenensis(Powell, 1971)ニュージーランドイトマキツムバイ(新称)(タイプ産地:ニュージーランドAldermen島沖)。本属は貝殻が亜楕円形,殻頂は鈍く,螺条は明瞭,縦肋は螺層上部にのみ残り,水管は短いなどの特徴をもつ。形態的に類似するManaria Smith, 1906 イトマキシワバイ属とは原殻が高く,縦肋を欠くことで,また,Aulacofusus Dall, 1918 ヒモマキツムバイ属とは,螺肋が強く,体かく殻が大きいことなどで区別される。</p><p>その後,Fraussen & Stahlschmidt(2013)は熱帯太平洋のイトマキシワバイ属とそれに関連した属の種レベルの詳細な検討を行い,ヒメイトマキツムバイ属には3種の未記載種を含む12種を含めた。そのうち本邦海域からは,C. hayashii(Shikama, 1971)ハヤシイトマキツムバイ(遠州灘),C. poppei(Fraussen, 2001)ポッペイトマキツムバイ(沖縄,南シナ海)を記録している。今般,日本中南部とその周辺海域,及び鹿児島県阿久根沖から得られた標本を検討した結果,さらに2新種を認めたので,ここに命名記載する。</p><p>Calagrassor analogus n. sp. チビイトマキツムバイ</p><p>本属の中ではやや小型。薄質で陶器白質,紡錘形で膨らむ。螺塔は高い。次体層で9,体層で19の螺条があり,周縁部では太く螺条間隔も広いが体層下部では細まる。縦肋を欠く。殻口は楕円形,水管溝は短い。オリーブ色の殻皮を被る。殻口,水管部で殻長の半分を占める。蓋は薄い角質で,青みがかった褐色,核は下端にある。沈木に付着あるいは沈木上の小穴に棲息する。</p><p>比較:本属の他種ではフィリピン産のC. bacciballus Fraussen & Stahlschmidt, 2016と最も近似するが,殻口が狭く,細形で肩部がなだらかなことで区別される。ニュージーランドイトマキツムバイ,ハヤシイトマキツムバイとは螺条がやや狭く,螺層上部で縦肋を欠くことで異なる。</p><p>本種は従来,北海道東岸,東北沿岸を経て銚子に分布するAulacofusus hiranoi(Shikama, 1962)ヒラノイトマキツムバイに混同されてきたが,原殻が小さく,成殻は遥かに小型で,殻高が高く,殻頂部が溶失せず,螺肋の幅が細いこと等により異なる。</p><p>種小名は近隣属との類似を示唆,和名はタイプ産地による。</p><p>タイプ標本:ホロタイプ NSMT-Mo 78455(殻高16.4 mm)。</p><p>タイプ産地:三重県尾鷲沖,水深200 m。</p><p>分布:愛知県沖,三重県尾鷲沖,和歌山県潮岬沖,鹿児島県野間岬沖,沖縄県尖閣諸島,東シナ海,台湾。</p><p>Calagrassor hagai n. sp サツマチビイトマキツムバイ(和名新称)</p><p>殻は重厚,原殻は溶失する。純白色,細い梨形。螺塔は高く,縫合は明瞭。次体層で10,体層で22の螺条があり,螺条間隔はやや狭い。縦肋を欠く。殻口は亜楕円形,外唇はやや薄く,殻彫刻に対応し端部は弱く波打つ。軸唇は穏やかに曲がる。殻口,水管部で殻長の半分を占める。緑オリーブ色の殻皮を被る。蓋は確認されていない。</p><p>比較:本種は,台湾北部に分布するC. tashiensis(Lee & Lan, 2002)ターシイトマキツムバイ(新称)に似るが,殻彫刻,特に螺層上部の彫刻が異なること,水管溝がやや長いことで区別される。フィリピン以南に分布するC. pidginoides Frsaussen & Stahlschmidt, 2016ミナミイトマキツムバイ(新称)とは螺条が多く,螺条間隔が広く,殻形はより膨らむことで異なる。ニュージーランドツムバイ,ハヤシイトマキツムバイとは螺条がやや狭く,螺塔上部で縦肋を欠くことで区別される。</p><p>種小名は本属の知見を提供された芳賀拓真博士に献名,和名はタイプ産地による。</p><p>タイプ標本:ホロタイプ NSMT-Mo 784980,殻長16.6 mm。</p><p>タイプ産地:鹿児島県阿久根市沖,水深300 m。ハヤシイトマキツムバイと同時に得られた。</p><p>分布:タイプ産地以外からは知られていない。</p>

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