日本古来の香りを通して時代をみる

  • 岩橋 尊嗣
    大同大学 情報学部総合情報学科 かおりデザイン専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Consider the changing times by knowing the scent of traditional Japanese

抄録

<p>本特集では,日本古来の伝統文化として継承されている華道,茶道,香道の中で“お香”について紹介する.本誌では,これまで“お香”に関連する情報として次に示す二題を掲載している.</p><p>①本間延実:「香料史概略と幾つかの逸話」(2005年36巻No. 4),</p><p>②太田清史:「香と日本文化」(2008年39巻No. 3)</p><p>これを機会に,是非これら二誌についても目を通していただきたい.アロマセラピーの普及に伴い,主として植物精油の活用が一般家庭にも拡大する傾向にある中で“お香”は,ちょっと敷居が高いというイメージがありそうだ.しかも,日本社会では,どうしても仏事(焼香)としての印象が強く定着している.しかし,太田氏も誌面の中で述べられているように,近年,日本独自の香文化が再評価されているらしい.和風旅館の玄関に入った瞬間,女将の出迎えとともに「伽羅の香り」がふーっと漂ってくる.こんな洒落た気配りをする施設が,最近増えているような気がする.</p><p>本特集では,“日本古来の香りを通して時代をみる”と題して,4編の記事を掲載する.前半の二題は伝統文化としての“お香”に関する記述である.まず始めに,三井氏(公益財団法人お香の会)には,「香道のすすめ」という題目で執筆していただいた.</p><p>日本における香道の歩みについて,詳細に紹介されている.一般的にはなかなか判りにくい香道の代表的な流派である「御家流と志野流」についての詳細も明確に示していただいた.記述の流れから香道の神髄がみえてくる.</p><p>第2編では,渡辺氏(香研究会IRI)に「お香を現代生活に活かす」という題目で執筆していただいた.渡辺氏が代表を務める団体は,お香文化を広めるために様々な催しを企画し,啓蒙活動を積極的に押し進めている.難しい漢字が並び親近感の湧きにくい“香十徳”についても,噛み砕いた表現で説明され読者の方々も納得されるのではないだろうか.今後のさらなる活動が期待される.</p><p>後半の二題は,香木等の素材に含まれる香り成分に関連する記述となっている.</p><p>第3編では,長谷川氏(埼玉大学大学院)に「お香の香気成分」という題目で執筆していただいた.具体的に白檀,バチュリ,ベチバー,乳香等について独自に考案した香気成分の分析から得られた結果を解析し,そこから判明した知見について詳細に述べられており,興味深く読んでいただけると思う.</p><p>第4編では,駒木氏((株)カネボウ化粧品)に「龍涎香の香り」という題目で執筆していただいた.</p><p>龍涎香よりアンバーグリスと呼んだ方がピンとくるかも知れない.龍の涎(よだれ)とは一体どのような香りなのか?興味をくすぐられる.駒木氏は龍涎香に関する分析者として特に著名であるが,決して読者を退屈させないストーリー性持たせた記述になっている.本年3月16日から6月9日まで青森県立美術館にて龍涎香が展示される.百聞は一見にしかずである.</p><p>お香を学ぶためには,一級品の香木に接しなければならないとも言われている.渡辺氏が活動されているお香を体験できる機会をさらに広げていただけたらと願う次第である.“香を聞く”と言うことは,五感を研ぎ澄まし,心を無にし自己の世界に入り込む,究極的な静寂空間の創造なのかも知れない.これらの香に関する感覚的な分野に化学的なメスが確実に入っている.香り立つ複雑な香気成分が明らかにされると,これらの物質の効能についても判ってくる.お香の分野の益々の発展が大いに期待される.</p><p>2011年の奈良正倉院展では“蘭奢待”が一般公開された.人並みに押されながら目にした香木は,予想よりもはるかに大きく存在感は絶大であった.今年は龍涎香の展示が青森県立美術館で催される.時間の許される方は,是非とも東北に目を向けていただきたい.</p><p>最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず多くの情報・データを取り揃えご執筆いただいた著者の方々に対し,本紙面を借り深く感謝申し上げます.</p>

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