高次脳機能障害のリハビリテーションと職場復帰

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説明

高次脳機能障害とは、運動麻痺、感覚障害、痴呆などでは説明できない中枢神経系の障害による言語、認知、動作の障害のことであり、高次脳機能障害の症状には、失語、失行、失認、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、精神情動障害などがあり、原因疾患として脳血管障害、外傷性脳損傷、脳炎、変性疾患などがある。近年、我が国では、交通外傷などを契機として生じる認知機能障害で、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害を主症状とする認知障害に限定して用いることがあり、我々のリハビリテーション科では診療対象患者の多数は外傷性脳損傷や脳血管障害であるので、本報告では主に後者の意味で高次脳機能障害の用語を用いることにする。高次脳機能障害の発症数は必ずしも明確ではないが、2008 年に東京都が実施した調査では49, 508 人の患者が抽出された。福岡県で実施した外傷性脳損傷を主体とする高次脳機能障害の発症調査では、中等症および重症の高次脳機能障害患者は6. 4/人口10万人であったが、軽症のものも含めると5〜10 倍の患者がいると推定できる。外傷性脳損傷の発症率は年米国のCentersfor Disease Control and Preventionによれば79. 0/人口10万人である。高次脳機能障害の治療は、急性期は救急診療科、脳神経外科、神経内科などで集中的治療が実施され、その後は回復期リハビリテーション病院で神経心理学的評価や訓練が実施される。回復期リハビリテーション病院を退院して直ちに社会復帰や職場復帰が可能な症例は少なく、多くはリハビリテーション科、脳神経外科、神経内科、精神科での通院診療や訓練を要する。最近の5 年間に当科に入院した高次脳機能障害患者92 症例に対して、Wechsler Intelligence Scale,Wechsler Memory Scale, The Rivermead Behavioral Memory Test, Frontal Assessment Battery,Behavioral Assessment of Dysexecutive Syndromeを実施し、訓練や指導を行い、退院後の帰結により一般雇用、保護雇用、非雇用に分け、3 群間を比較した。一般雇用群は非雇用群に比べてWAIS-RのPIQ、FIQ、WMS-Rの言語性記憶、視覚性記憶、一般的記憶、遅延再生、RBMT が有意に高得点であり、保護雇用群は遅延再生のみが非雇用群よりも有意に高得点であった。FABとBADS には3 群間で相違はなかった。職場復帰が可能であった症例および不可能であった症例を提示し、さらに高次脳機能障害と職場復帰の要因に関して概要を述べる。

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