高齢者における飲酒コントロールと認知症予防
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- 松井 敏史
- 杏林大学医学部高齢医学講座
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適度な飲酒は体に良いと一般に流布している。多くの観察研究で一日2 ドリンク(純エタノール換算で20g)程度までの飲酒量でmortality rates が一番低いことが示されてきた。この量はビール500 mL、日本酒1 合に相当する。一方で、過多の飲酒はmortalityに関わる健康被害を増大させる。この飲酒量とmortality ratesとのJカーブの関係は、「健康日本21」の「節度ある適度な飲酒」量を設定する根拠となった。それでは、飲酒量と認知症発症との関係はどうであろうか。最近の23 研究を合わせたメタ解析では少量飲酒に認知症のリスク低減効果が認められ、全認知症においてRisk ratio(RR)が0. 63(95% CI 0. 53-0. 75)、アルツハイマー病では0. 57(9. 44-0. 74)、脳血管認知症では0. 89(0. 67-1. 17)と報告している。少量飲酒の認知症に関与するメカニズムとしてHDL コレステロール増加作用、フィブリノーゲン低下作用、内因性エストロゲン活性化、また特にワインにおけるポリフェノールなどの抗酸化作用などがあげられる。一方、アルコール1 日30 g を越える飲酒量は認知症のリスクを明らかに増大させる。高齢アルコール依存症者では認知機能低下が一般的で、頭部MRI 画像上、萎縮性変化に加え脳梗塞・深部白質病変が高率に認められる。脳梗塞の頻度は60 才台で50%と、健常者高齢者の3〜4 倍の頻度である。また健常高齢者においても習慣飲酒は脳血管障害のリスク因子である。65 才以上の健常者を対象にした住民検診でMRI 画像上の径5 mm以上の無症候性脳梗塞の頻度は約25%であり、そのリスク因子は年齢・高血圧・喫煙・飲酒・男性・血漿ホモシステイン値であった。高齢者では、ライフスタイルの変容が飲酒の意義を変質させ、飲酒そのものが目的となる。かつては身体的・精神的ストレスの調整弁になり一定量に収まっていた飲酒が、退職や配偶者の死などにより無節制かつ過度になることで、逆に身体的・精神的ストレスを助長しうる。高齢者の約15% に飲酒が関連した何らかの健康問題があるといわれ、これらは健康寿命に関わる重大な疾患につながる。すなわち合併する脳血管障害は、転倒・肺炎発症と関連し、寝たきりを生ずる4大疾患が、骨折転倒・廃用症候群・脳血管障害・認知症であることを考えると、多量飲酒はどの疾患にも密接に関与しているのであろう。つまるところ、高齢者の飲酒問題とはmental-physical-environmental の問題である。社会的活動や仕事の継続など生きがいのある生活と共にある適度の飲酒なのか、さびしいから、することがないから飲むといったライフスタイルを破綻させる飲酒なのかが「節度ある適度な飲酒」量を規定する。また、適度な飲酒量であっても、これは健康になるという性質のものではなく、適量のお酒を飲める環境、すなわち適度な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした生活を送るための、つまり、ライフスタイル維持の観点から論じられるべきである。
Journal
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- Japanese Journal of Cognitive Neuroscience
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Japanese Journal of Cognitive Neuroscience 15 (2), 118-118, 2013
Japanese Society of Cognitive Neuroscience
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680201475968
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- NII Article ID
- 130006895780
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- ISSN
- 1884510X
- 13444298
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
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