クワエダシャクに関する分類学的知見

書誌事項

タイトル別名
  • Taxonomic Notes on Menophra atrilineata (BUTLER) (Lepidoptera, Geometridae)
  • クワエダシャクに関する分類学的知見〔英文〕
  • クワエダシャク ニ カンスル ブンルイガクテキ チケン エイブン

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抄録

Menophra atrilineata(BUTLER)クワエダシャクは,桑の害虫としてよく知られている.WARREN(1894)は,雌触角が両櫛歯状であることに着目してこの種を模式種として,属Phthonandriaを創設した.WEHRLI(1941)は,中国からemarioidesとその変種epistygnaをPhthonandriaとして記載し,さらに台湾のcuneilineariaも同属と考えた.本報ではこれらの種を再検討し,emarioides, epistygna, cuneilineariaはいずれもクワエダシャクそのものであることが判明したので,atrilineataのシノニムとして整理した.ただし台湾の個体群は,翅表全体に黄色味が強く,横線ははっきりせず,前翅の中央黒色部がよく発達するなど,日本・朝鮮産と明らかに異なるため亜種として扱うことにした.なお本種とその近縁種については,属レベルの再検討が必要であるが,現段階では井上(1982)に従つて本種をMenophra属の一員としておく.Menophra atrilineata atrilineata(BUTLER,1881) Phthonandria emarioides WEHRLI, 1941. Syn. nov. Phthonandria emarioides var. epistygna WEHRLI, 1941. Syn. nov. 分布,日本,朝鮮,シベリア南東部,中国,インド南東部. Menophra atrilineata cuneilinearia(WILEMAN,1911) comb. & stat. nov. 分布.台湾. 台湾では戦前,応用昆虫学の分野で,日本と共通のクワエダシャクが分布するものとして,atrilineataの名で生態や防除について研究が進あられた.素木(1913)と牧(1915)の報告はともに各ステージを詳しく記載したものであるが,成虫の体色斑紋が日本のものと異なるという記述は見られない.「経過習性」の項では,「1年5回以上」(素木),年発生回数は明確ではないが,「4,5回に達するならん,2,3月頃に最も多く」(牧)と記されており,日本と異なる周年経過が報告されている.WILEMAN(1911)がcuneilineariaを記載した当時,その実体を知るすべもなかったわけで,結局現在に至るまで台湾の「クワエダシャク」は,応用昆虫学の分野では日本と共通のatrilineataとして扱われ,分類学の分野では,cuneilineariaとして認識されてきたことになる.私(佐藤,1977)は,日本のクワエダシャクとその近縁種の終齢幼虫を調査し,A,B2つのグループに分けられることを報告した.Aは本種と、M.emariaエゾウスクモエダシャク,BはM.harutaiハルタウスクモエダシャクとCeruncina retractaria senilisウスクモエダシャクである.ウスクモエダシャクはその後Menophraに移され,senilisは独立種と判った(佐藤,1980).本報では,さらに1齢幼虫の体色斑紋パターンと雌触角の形状においても,A,Bが明らかに異なることを示した.今後多くの材料を得て属の再検討を進めたい.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 35 (3), 138-144, 1984

    日本鱗翅学会

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