インドネシアのアゲハチョウ科の新知見

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タイトル別名
  • Notes on some Papilionidae (Lepidoptera) from Indonesia
  • Notes on some Papilionidae Lepidoptera

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抄録

インドネシアのアゲハチョウ科の数種について新知見を提出した.Hagen(1894)はPapilio hewitsonii,Papilio neptunus,Papilio cloanthusのそれぞれについてvar.sumatranaを記載した.それらは今日,異なる属の種グループ名として扱われているが,もちろん一次ホモニムであるので,内2つは無効とされねばならない.これらは同じ日付で公表されているため(この場合では同じ著作),最初の改訂者の行為としてPapilio cloanthus var.sumatrana Hagenを有効なものと認め,残る2つのsumatranaを無効とすることで,学名の変更を最小限なものとした.この結果,今日独立種とされるGraphium sumatranum Hagen(=Papilio cloanthus var.sumatrana)の学名は変更しない.Papilio neptunus sumatranaは,模式産地を検討したところLosaria neptunus siborangitana Tsukada&Nishiyama,1980のsenior synonymであることが判明したが,Papilio neptunus var.sumatranaは無効となるので,neptunusのこの亜種名には引き続きsiborangitanaが有効となる.ただし,本種はPachlioptaに属するので,所属を変更した.なお,Papilio hewitsonii var.sumatranaは,今日Papilio slateri perses Niceville,1894のシノニムとされているので,ホモニムの議論とは関係なくperses Nicevilleが有効名として使用される.Papilio milon C.&R.Felder,1864は記載を伴わない不適格名で,このタクソンにはPapilio milon C.&R.Felder,1865が適格であるが,種レベルではPapilio anthedon C.&R.Felder,1864が先行するので,現行の亜種区分に従えば,セラムやアンボンのものが原名亜種Graphium anthedon anthedonとなり,スラウェシの亜種がG.anthedon milon(C.&Felder,1865),スラ諸島がG.anthedon sulaense(Lathy),ハルマヘラがG.anthedon dodingense(Rothschild),オビ島がG.anthedon crudum(Rothschild),ブル島がG.anthedon halesus(Fruhstorfer)となる.なお,Graphium sarpedonの亜種とされることのあるmonticolum(Fruhstorfer)は,別種として扱うのが望ましいと考える.そうすることで,自然保護の観点からもmonticolumが見落とされなくなろう.Graphium weiskei Ribbeの♂2頭が1990年11月にジャワで得られているが,偶然持ち込まれたか近くにバタフライファームがあるのかも知れない.Graphium encelades(Boisduval)の♀は極めて少ないが,古くスラウェシで得られた標本を検した.Fig.1に図示した通り,♂とはほとんど差異がない.ジャワのPapilio demoleus Linnaeusは数える程しか記録がなかったが,1996年7月,ジャカルタとスラバヤで3頭の成虫を観察し,同種と思われる幼虫をミカンの小木で見つけた.スラバヤで採集した1♀は亜種malayanus Wallaceであった.本種はジャワに定着したと考えられる.また,東ジャワ産の3♂をオーストラリアの業者から得たが,これらは亜種libanius Fruhstorferであった.Papilio polytes ab.alpheios Fruhstorfer,1902は,フィリピンのalphenorの♀に似たものとして北スラウェシ,ミーナハーサ半島のメナドより記載され,後にJordan(1909)により亜種に昇格されたためPapilio polytes alpheios Jordan,1909として知られる.しかし,Martin(1915)は北スラウェシにPapilio polytes alcindor Oberthurも分布するとした.北スラウェシのalcindorの標本は,塚田・西山(1980)にもドルドゥオ産の♂が図示され,最近での最初の確実な記録となっている.P.polytesが2種に分割されたのはようやく1971年になってからであり,北スラウェシにはP.polytes alcindorとP.alphenorが産することとなった.しかし,スラウェシの北方,タラウド島やサンギヘ島にはPapilio alphenor perversus Rothschild,1895が産し,北スラウェシのメナドから書かれたalpheiosはこれと区別できないので,perversusのシノニムとした.また,スラ諸島から記載されたP.alphenorの別の亜種,P.alphenor polycritos Fruhstorherはスラウェシ東部のペレン島まで分布する.スラウェシとその周辺のこれら2種の分布図をFig.8にまとめたが,サンギヘ島のalcindorはアムステルダムの博物館にある1♂のみであり,確認が必要である.また,スラウェシ東南部のブドゥン島のalcindorの記録はBryk(1930)が知られるのみである.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 49 (3), 219-228, 1998

    日本鱗翅学会

参考文献 (21)*注記

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