Helicoverpa sugii sp.nov.クロタバコガ(新称)の小笠原諸島からの記載と簡単な生態の報告(鱗翅目,ヤガ科,タバコガ亜科)

  • 吉松 慎一
    Insect Systematics Laboratory, Natural Resources Inventory Center, National Institute for Agro-Environmental Sciences
  • 竹内 浩二
    Tokyo Metropolitan Plant Protection Office

書誌事項

タイトル別名
  • Description of Helicoverpa sugii sp. nov. (Lepidoptera, Noctuidae, Heliothinae) from the Ogasawara (Bonin) Islands, Japan, with brief biological notes

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抄録

Helicoverpa属は全世界の熱帯から温帯地域にかけて20種が知られている.広域分布種もいるが,中には太平洋上の海洋島の特産種も含む.本属の単系統性は,成虫の形態的な特徴とDNAの塩基配列から強く支持される.すなわち,雄交尾器はコイル状に巻いたcornutiを備えたvesicaを持つこと,雌交尾器は革状のappendix bursaeを備えるというsynapomorphy(共有派生形質)がある(Matthews,1999).他方,これまで日本からはタバコガ亜科には9種が知られており,その内Helicoverpa属の種としては,H.assultaタバコガとH.armigeraオオタバコガの2種害虫が知られていた.多くのHelicoverpa属の種の前翅は黄色,茶色となるが,ここで報告する小笠原産のHelicoverpa属の1種は黒色の前翅を持ち,オーストラリア産のH.prepodesでは前翅は灰色となる.また,H.armigeraオオタバコガとオーストラリア産のH.punctigeraでは黒色型の成虫が生じることがある.しかし,この小笠原産のHelicoverpa属の1種はこれら同属の黒色あるいは灰色の前翅を備える種とは雌雄交尾器形態で識別できるので,ここで新種として記載した.柳田・中島(1999)は本種を,Helicoverpa sp.クロタバコガ(杉氏仮称)として小笠原から報告しているが,ここではその和名をそのまま活かしたいと思う.また,終齢幼虫と卵の写真を初めて図示した.終齢幼虫は,H.armigeraオオタバコガと同様,体色の変異が大変大きかったが色彩が幾分異なるようだ.採集した母蛾より採卵し,試験的に11種の植物で飼育してみたところ,マメ科コメツブウマゴヤシMedicago lupulina L.でうまく飼育でき,2頭が蛹化し,うち1頭が羽化した.コメツブウマゴヤシは欧州原産であるので,実際の食草は別にあるはずである.小笠原諸島ではタバコガ,オオタバコガ,クロタバコガのHelicoverpa属3種が同所的に棲息している.Hardwick(1965)は雌雄交尾器形態に基づいてHelicoverpa属にpunctigera,gelotopoeon,hawaiensis,armigera,zeaの5つの種群を認めた.本報告で記載したクロタバコガはこのうちzeaグループに所属すると考えられるが,本グループにはHardwick(1965)により以下の8種が認められた.このグループの中で,H.zeaは南北アメリカ大陸に分布する著名な害虫で,またH.assultaタバコガはアフリカからアジア,オーストラリアにかけて広域に分布する害虫である.他に,アフリカにはH.fletcheriとH.toddiを産し,アジアからはH.tibetensisが知られる.残りの3種が太平洋上の諸島の固有種で,ハワイ東部の諸島にはH.confusa,リジアンスキー島(ハワイの西端)にはH.minuta,ジャルビス島(ホノルルの南約2,000km)にはH.pacificaを産する.また最近オーストラリアから記載されたH.hardwickiも本グループの一員だと考えられる.クロタバコガは,♀交尾器形態はH.zeaに酷似しているものの,♂交尾器はvalvaの形態やvesica上のcornutiの形状等が本グループの他の種とは異なる.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 55 (1), 34-38, 2004

    日本鱗翅学会

参考文献 (3)*注記

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