前翅長が重複することが判明した酷似種ノコバヨトウ(Tiracola plagiata)とオオノコバヨトウ(Tiracola aureata)を識別する

書誌事項

タイトル別名
  • Distinguishing the externally similar imagines of Tiracola plagiata and T. aureata whose forewing lengths were shown to overlap (Lepidoptera, Noctuidae)

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抄録

Tiracola属(ヤガ科:ヨトウガ亜科)には世界から13種が知られている.日本からは東南アジアの広域分布種でもあるノコバヨトウT. plagiata(Walker)とオオノコバヨトウT. aureata Hollowayの2種が記録されている(Sugi,2001;Yoshimatsu,2011).ノコバヨトウは非常に広食性の様で,インドネシアではカカオTheobroma cacaoやパラゴムノキ属Hevea等の害虫としての記録があり(Kalshoven and Laan,1981),台湾からは柑橘類の害虫として記録されているが(Sugi,1982),両種は近年まで混同されてきたために(Holloway,1989),寄主植物については今後の再検討が必要である.両種の翅の斑紋は類似するのに加えて,色彩は共に非常に変異に富み,外見的に両種を識別することは非常に難しいが,オオノコバヨトウはノコバヨトウより常に大きいことから両種の識別は可能だとされてきた(Sugi,2001).ところが,筆者らが手元にある両種の標本の雌雄交尾器と前翅長を詳細に比較検討したところ,両種の前翅長には有意差があったものの,ノコバヨトウの中にはオオノコバヨトウより前翅長の長いものや同等の前翅長を持つものが存在することが判明した.両種の雄交尾器は,Holloway(1989)によって明瞭な識別点が図示されているが,両種の雌交尾器に関してはこれまで検討されてこなかった.そこで筆者らが両種の雌交尾器を詳細に観察したところ,antrumはノコバヨトウでは幅広く,側方に三角形状に突出するのに対し,オオノコバヨトウでは幅が狭く,突出しないことで両種は簡単に識別できることが今回新たに判明した.また,今回ベトナム産の両種の新鮮な標本が得られたことから,ミトコンドリアCOIの一部領域の塩基配列を解読し,標準的なDNAバーコーディングによる両種の識別を試みたところ,有効であることが示された.さらに,Watabiki et al.(2013)において著名な害虫ハスモンヨトウ等を含む日本産ヤガ科Spodoptera属6種のDNAバーコーディング領域の種間の平均の塩基置換率は5.6%であることが示されているが,本研究においてノコバヨトウとオオノコバヨトウの種間の塩基置換率を算出したところおよそ5.1%であり,日本産Spodoptera属6種の種間の平均の塩基置換率と類似の値を示したので,参考までにここで触れておく.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 64 (3), 123-127, 2013

    日本鱗翅学会

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