特発性腹直筋血腫の1例と本邦報告例の統計的観察

書誌事項

タイトル別名
  • SPONTANEOUS HEMATOMA OF THE RECTUS ABDOMINIS MUSCLE, A CASE REPORT AND A LITERATURE REVIEW IN JAPAN
  • トクハツセイ フクチョクキン ケッシュ ノ 1レイ ト ホンポウ ホウコクレイ

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説明

特発性腹直筋血腫は腹腔内疾患とまぎらわしい症状をしめすことで知られている稀な疾患で,旧くから種々の名称で呼ばれている.われわれは本症の一例を経験したので報告し,あわせて本邦における本症報告例について統計的観察を試みた.<br>症例は50歳の男子.咳嗽に引き続き右下腹部痛を来たし来院,急性虫垂炎の診断で手術により本症と判明した.手術は血腫除去,止血,ドレナーヂを行なった.術後1時再発を思わす徴候がみられたが,保存療法で軽快,術後4週で退院した.<br>本邦の本症例は文献上35例である.誘因は咳嗽が最も多く,その他分娩,労働,運動などがみられた.年齢は20~78歳,平均55.8歳,男女比は14:24で,中高年で女性にやや多い傾向であった.発生部位は右下腹部,次いで右上腹部,左上,下腹部の順であった.これはTeskeのいうように中高年になって血管,筋肉の老化がみられる上に,腹直筋の急激な伸縮運動(下腹部が最も大きい)により,血管,筋肉の破綻が生じ本症を発生すると思われる.症状は局所の疼痛は必発で,多くは移動性の少ない,圧痛を伴なう腫瘤を触れている.皮下出血斑のみられた例も少なくなく,また発熱,白血球増多のみられることもある.診断は前述のごとき誘因に引き続き発生する比較的限局性の疼痛と圧痛のある腫瘤を触れれば,本症を疑わねばならないが,その診断率は低く, 35例中13例であり,多くは虫垂炎,腸閉塞など急性腹腔内疾患が疑われた.治療は診断が確実であれば,安静,冷罨法,止血剤および抗生剤の投与などの保存療法で経過観察してよいようであり,血腫の増大傾向または診断が不確実であれば,手術療法を行なうべきは当然である.予後は比較的良好であり,激症肝炎に併発した死亡例を除き,全例治癒している.

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