フォーカス・オン・ザ・ファミリーへのフォーカス― 日米における家族と宗教に関する比較考察―

書誌事項

タイトル別名
  • Focus on Focus on the Family : Religion and Family in the United States and Japan
  • 展望 Focus on Focus on the Family:Religion and Family in the United States and Japan
  • テンボウ Focus on Focus on the Family Religion and Family in the United States and Japan

この論文をさがす

抄録

フォーカス・オン・ザ・ファミリー(Focus on the Family:家族への焦点)によれば、アメリカの伝統的な家族は、「世俗的ヒューマニストたち」によって激しく攻撃され、その結果、崩壊の瀬戸際にあるという。とりわけそれは、1960年代と70年代の、価値に関する世代間ギャップおよび主婦の高い就職率とによって推し進められた。しかしこの「危機」は、最近の数十年に限定されるものではない。世代間ギャップはアメリカの歴史を通じて見られるものであるし、第二次世界大戦以前からアメリカのおおぜいの妻や母たちは外で働いてきたのである。彼らのいう「伝統的家族」とは、とりわけ50年代に都市近郊の共同社会において優勢だった家族モデルに基づいているようである。その家族が依拠する伝統的価値は、フォーカス・オン・ザ・ファミリーのような保守的なキリスト教徒アメリカ人にとってのみ「伝統的」である。すなわち、「伝統的家族」は必ずしも「伝統的」ではない。むしろそれは、ある政治的-宗教的目的によって意図的に回復され、「発明」された理想の家族である。より深層意識のレベルでは、それは理想的な家族へ回帰したいという欲望の表明なのである。理想の家族に対するこのようなある種ノスタルジックな願望は、日本の新宗教にも共通しており、そこでは教祖を当該共同体の成員のみならず人類すべての親とするレトリックが用いられている。保守的なキリスト教徒は、女性はできるだけ家にいるべきだと主張する。彼らは、家族とはどうあるべきかを明らかにするために、「今、ここで」伝統的な価値を復活しようと試みている。彼(彼女)らは、ユダヤ-キリスト教信仰によって家族を「聖化」しようとしているのであり、そしてこの「聖化」は、建国の父の精神を維持する父=大統領の指導のもとで一つの「家族」としてアメリカ合衆国を「聖化」しようとする動きに対応している。一方、日本の新宗教は、地域共同体の絆を失い都市社会で孤立している家族に対し、ヒエラルキーではなく平等に基づいた人間関係のための範型を提供する。新宗教は、それら家族のためのモデルとして機能し、家族の親子関係や夫婦関係に宗教的意味を与える。換言すれば、新宗教は世俗化された家族パターンを再聖化する手段を提供するのである。かくして、歴史的および文化的差異にもかかわらず、合衆国のフォーカス・オン・ザ・ファミリーと日本の新宗教との間には、家族の価値に関して、重要な共通性が指摘されうる。第一に、両者とも、伝統と近代化(および世俗化)の間を揺れ動く家族に、伝統的価値に基づいた家族のモデル像を提供する。第二に、両者は、家族内の関係をもっとも重要な人間関係とみなし、個性よりも「調和」や「共同」により高い重要性を与える。最後に、両者にとって家族とは、何よりも信仰の場である。それぞれの家族とその家族が属する宗教共同体との同一視を通じて、フォーカス・オン・ザ・ファミリーも新宗教も、家族を「聖化」すると同時にその家族をそれらの価値体系に編入するのである。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ