植民地支配と家族法

書誌事項

タイトル別名
  • British Colonial Rule and Family Law:
  • 植民地支配と家族法 : ザンジバル保護領(英領)の事例
  • ショクミンチ シハイ ト カゾクホウ : ザンジバル ホゴリョウ(エイリョウ)ノ ジレイ
  • A Case Study of the Zanzibar Protectorate
  • ─ザンジバル保護領(英領)の事例─

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抄録

本稿は、イギリス植民地支配の介入の歴史的意義を、司法制度と家族法との関連で、ジェンダーの視点から読み解くことを課題としている。対象は、現在タンザニアと連合共和国を構成しているイギリス保護領ザンジバル(1890~1963)である。<BR>史料としては、『ザンジバル法令集』と『ザンジバル保護領判例集』を使用した。法令集からはイギリス支配の人種・民族・階層・ジェンダー差別を読み解き、判例集からは女性が原告または被告となった62件の家族法に関わる判例を分析の対象とした。<BR>分析の視座は、研究史の中で主な論点となっている次の2点に絞った。ひとつは、植民地支配による法的介入を「伝統の創造論」の系譜から読み解くこと、第2は、植民地下でも維持された女性の自律性を判例から導き出すこと、である。最後に、現在のザンジバルにおけるポストコロニアル状況を、脱植民地下の問題とも絡ませながら考察した。<BR>以上の分析から見えてきたことは、植民地下で導入されたイギリス人判事による裁判は、植民地化前から設置されていたイスラーム裁判所の判決を覆して女性に有利な判決を導き出すことがあったが、それは、必ずしもイギリス人判事が女性の社会的地位を向上させようとしたためではなく、ザンジバル社会に内在していた女性の自律性が新しい裁判制度の中で光を当てられたにすぎない、ということだった。イギリス人判事は、ザンジバルにおける男性主導の硬直したイスラーム法解釈を修正し、本来のイスラームが持っている柔軟性をザンジバルの慣行に即して修復したと見ることもできる。<BR>このように、植民地支配の介入は、ジェンダーの視点から見ると、善か悪か、近代か伝統か、あるいは支配か抵抗か、といった二元論に還元できない問題を含んでいる。それは、対立・抗争・調整・妥協の紆余曲折を経ながら乗り越えてゆく課題であり、アフリカ固有の価値観・イスラーム的価値観・西欧的価値観・国際社会が共有しつつある価値観のすべてが検証され、修復され、選択され、ハイブリッド化されて、新しいジェンダー関係やジェンダー秩序が創出されるプロセスなのである。

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