ネパール現存の梵語・ネワール語混成写本について

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  • The Sanskrit-Newari Bilingual Buddhist Manuscript of Nepal:
  • The Sanskrit-Newari Bilingual Buddhist Manuscript of Nepal : Its Role in the Buddhist Studies
  • Its Role in the Buddhist Studies

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抄録

ネパール仏教の最大の特徴は,インドから伝播した経典,陀羅尼等の写本を梵文原典から現地語のネワール語,ネパール語等に翻訳することなく,原典のまま使用していることである.それはババーやバヒーと呼ばれるカトマンズ盆地の仏教寺院に今日までも継承されており,13世紀初頭にインドで途絶えてしまったサンスクリット語を中心とするインド仏教の思想・儀礼・図像などが維持・保存されている.一方,14世紀に入る頃ネパールの仏教梵文写本に変化が現れる.すなわち,梵文原典にネワール語(非アーリヤ語)の翻訳または註釈が加わるようになり,その傾向は特に18世紀以降に顕著となる.このように梵文原典を解説する形でネワール語の註釈・解説などが付け加えられた写本を「梵語・ネワール語混成写本」と呼ぶ.その内容には,仏典,陀羅尼,論書,儀礼次第,アヴァダーナ物語など幅広いジャンルが含まれる.ネパール現存の梵文写本には文法上の誤りがあることが指摘されている.梵語・ネワール語混成写本においても同様の傾向が見られる.とくに梵語・ネワール語混成写本には訳語や註釈にも誤訳・誤解がしばしば見られる.さらに訳者や註釈者が明記されていない場合もある.そのため,貴重な情報源にも関わらず研究資料として扱うことに課題も残る.ただし,それらの内容を吟味することで,梵文原典がもはや現存しない仏典の原文を回収できる可能性も皆無ではない.また,これらの写本のほとんどは13世紀にインドで仏教が滅んだ後,ネワール文化の影響のもとで製作されている.すなわちこれらの写本の研究は仏教とくにネパール仏教を知るための手引きとしてだけではなく,ひいてその担い手であるネワール人たちの土着の仏教文化の研究をするための典拠ともなり得ると考える.

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