リグヴェーダにおけるサラスヴァント

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  • Sarasvant in the Rgveda

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抄録

サラスヴァント(sarasvant-)は文字通りには恐らく「adj.池/湖saras-を持つ」を意味する.名称上は河川の女神サラスヴァティー(sarasvati-)の男性形の対応神格に該当するものと思われる.本稿ではリグヴェーダにおけるサラスヴァントとの関連が見受けられる6箇所の用例を中心に据えて分析し,さらにリグヴェーダ以降のヴェーダ文献における記述にも着目しながら,それら一連の伝承から看取されるサラスヴァントの特徴について考察する.リグヴェーダに言及されるサラスヴァントの特徴を整理すると,天高く飛翔する鳥類の姿で描かれ,また降雨や河川といった水と関連する事物によって恩恵(主に子孫繁栄が意図される)を齎す神格として描写される.また男性でありながらも,乳房を有する存在であることが示唆される.これらの特徴については主にサラスヴァティーとの類似点が指摘できるが,その一方で火神アグニ(agni-)の水中における出自の神話や,アパーム・ナパート(apam napat-,「水たちの孫」の意)讃歌の中にも,共通項とも解せる要素が見出される.リグヴェーダに伝承されるサラスヴァントのイメージは,その後のサンヒターにおいても概ねそのまま受け継がれる.他方散文においては,サラスヴァントはサラスヴァティーと共に一対の神格として意識される傾向が顕著に現れ,両者が「番(mithuna-)」であることが述べられる.

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