ダルマキールティにおける<誤った論難>(jati)について

  • 渡辺 俊和
    the Institute for the Cultural and Intellectual History of Asia of the Austrian Academy of Sciences

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タイトル別名
  • Dharmakirti on False Rejoinders (jati)

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抄録

本論文では,ダルマキールティのjati(誤った論難)説が,ディグナーガ説を継承しながらウッディヨータカラによる批判に対抗するものとして形成されたものであることを明らかにした.ダルマキールティはPramanaviniscaya 3.85で,jatiに関する彼の見解をまとめている.彼によれば,jatiの数はいくらでも考えだすことが可能であるので,個別に論じられる必要はない.これは,部分的にはディグナーガの説を継承しながらも,ウッディヨータカラによる,仏教徒の主張する14種へのjatiの分類に対する批判に応じるものである.このような基本的立場に反し,ダルマキールティはPVin 3.72(=PV 2.14)でkaryasamaというjatiを定義している.彼の定義はディグナーガの説に従うものであるが,それを改めて定義しなければならなかったのは,ウッディヨータカラによるディグナーガへの批判に対抗するためであった.ディグナーガは,samsayasamaによって対論者が誤った論難をなす際には,主張命題あるいは証因の意味が別様に仮構されることによって疑惑が生じると説明している.しかしウッディヨータカラは,これと類似した「証因の意味が別様に付託されることによって誤った論難が起こる」という特徴を,karyasamaの特徴であると主張し,ディグナーガ説は二つのjatiを混同しているとして批判する.これにより,彼以前にはkaryasamaについては大きな差が見いだされなかった仏教徒とニヤーヤ学派との間に明確な差が生じた.ダルマキールティはこれに対抗する必要から,ディグナーガ説でのkaryasamaの特徴である,「paksadharminとdrstantadharminとの差に基づいて証因に意味の違いを考える」という点を再度強調しているのである.

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