『瑜伽師地論』摂決択分の梵文注釈書断簡について

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タイトル別名
  • A Preliminary Survey on a Sanskrit Manuscript Folio of an Unknown Commentary to the <i>Viniścayasaṃgrahaṇī</i> from Tibet
  • A Preliminary Survey on a Sanskrit Manuscript Folio of an Unknown Commentary to the Viniscayasamgrahani from Tibet

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抄録

<p>『瑜伽師地論』を構成する5つのセクションのうち,唯識思想史を解明する上で,内容的に重要な「摂決択分」(Viniścayasaṃgrahaṇī)に関連する梵文貝葉写本の断簡3葉がラサに保存されている.3葉はかつてチベットのシャル寺所蔵の写本であったが,北京大学所蔵の写本写真を調査した葉少勇(Ye Shaoyong)教授によって発見,同定されたもので,そのうち2葉は摂決択分自体の写本であるが,残る1葉は摂決択分に対する未知の注釈書の断簡である.筆者は葉少勇教授より資料の提供を受け,これら3葉の解読研究を行っている.本稿では,3葉の中から未知の注釈書断簡を取り上げ,断簡全体の概要を紹介するとともに,特にア‍ーラヤ識と転識をめぐる四句分別について注釈する部分に焦点を当てて,その解読結果を報告した.この1葉がカヴァーする摂決択分の本文は摂決択分冒頭部のアーラヤ識に詳細な定義を与える箇所であり,袴谷憲昭教授の論文「Viniśca­yasaṃgrahaṇīにおけるアーラヤ識の規定」の中で示されたテキストの末尾部分,およびそれに続く「識身遍知」の冒頭部に対応するが,ここに引かれる本文によ‍って,袴谷憲昭教授による和訳および梵文単語の想定も一部修正することができる.この注釈書が誰によって著されたかは現時点では全く不明であるが,写本の書写に用いられた文字はグプタ書体の名残を留めた,8–9世紀に遡るブラーフミー文字であり,この写本に書かれた注釈書が唯識思想家の活躍した時代に遡る注釈書であることを示唆している.</p>

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