位相的弦理論で解く量子可解模型

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タイトル別名
  • Solving Quantum Integrable Systems by Topological Strings
  • イソウテキ ゲン リロン デ トク リョウシ カカイモケイ

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説明

<p>可解模型とはその名の通り,厳密に解くことが期待できる模型の総称である.可解模型の研究は,特殊関数や系の対称性に関連する群論などと深く関わっており,これまで多くの数学的成果をあげてきた.しかしながら,可解模型を実際に「解く」ことは一般に容易ではない.また何をもって問題が「解けた」と思うかは,人によって様々であろう.ここでは,ハミルトニアンを含む,系に存在する互いに可換な保存量の固有値を決定する方程式を明らかにすることが「解きたい」問題である.この問題に対する理論物理からの一つのアプローチを紹介したい.</p><p>超対称ゲージ理論と古典可解模型の間に非自明な関係があることは,20年以上前から知られていた.近年の大きな進展の一つとして,このような関係が量子化した後の系にまで持ち上がるということが挙げられる.この対応の驚くべき点は,ゲージ理論側の計算では,プランク定数に関する量子論的補正を簡単に取り込むことができるのである.したがって,量子可解模型の固有値問題を超対称ゲージ理論の結果を利用して,厳密に解くことができると期待される.実際,戸田格子や楕円型Calogero–Moser模型といった既知の可解模型には,自然な4次元ゲージ理論の対応物があり,NekrasovとShatashviliはそれらの量子可解模型の固有値が,対応する超対称ゲージ理論の結果から計算できると予想した.</p><p>これらの4次元ゲージ理論と量子可解模型の間の対応を,5次元ゲージ理論あるいはそれと密接に関連する位相的弦理論に拡張することも可能である.位相的弦理論は超弦理論におけるトイ模型の一種で,超弦理論の持つ重要な性質を抜き出したものである.数学的にも数え上げ幾何学やミラー対称性における研究において重要な役割を果たす.超弦理論そのものに比べて著しく簡単化されているため,非常に多くの厳密な結果が知られている.また超対称ゲージ理論を調べる際にも非常に有用であることが分かっている.前述の戸田格子やCalo­gero–Moser模型には,「相対論的」な拡張が知られており,これらの拡張された模型がちょうど位相的弦理論と対応すると考えられている.</p><p>我々は,相対論的可解模型の固有値問題と位相的弦理論の間の関係について詳細に調べた.このような位相的弦理論への一般化は,単なるNekrasovとShatashviliの結果の拡張だけにはとどまらず,真に驚くべき性質を持っていることが明らかになった.</p><p>我々の得た結論は,相対論的可解模型では,NekrasovとShatashviliの結果の単純な拡張だけでは不十分で,プランク定数に関する非摂動的補正が本質的に重要となる.さらに,固有値を決定する量子化条件には,プランク定数の強結合領域と弱結合領域を入れ替える「S双対」と呼ばれる双対性が存在し,この入れ替えのもとで摂動的補正と非摂動的補正の役割が交換することも分かった.このような驚くべき構造は,4次元ゲージ理論に対応する可解模型には存在せず,位相的弦理論に対応する相対論的可解模型に一般化して初めて顔を出すものである.</p><p>また別の視点からは,量子可解模型によって,位相的弦理論そのものを摂動論を超えて定式化できる可能性も秘めており,今後ますます発展していくと思われる.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 71 (11), 752-756, 2016

    一般社団法人 日本物理学会

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