オメガ-6 脂肪酸アラキドン酸のシグナリング調整と自閉症スペクトラム障害の中核症状の改善

  • 油井 邦雄
    静岡県立大薬学部医薬品情報解析学講座 獨協医科大学小児科学講座 芦屋大学大学院教育研究所
  • 川崎 洋平
    獨協医科大学小児科学講座
  • 山田 浩
    獨協医科大学小児科学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Modulation of Omega-6 Polyunsaturated Fatty Acid-dependent Signaling and its Therapeutic Potential for the Core Symptoms in Individuals with Autism Spectrum Disorders
  • オメガ-6 シボウサン アラキドンサン ノ シグナリング チョウセイ ト ジヘイショウ スペクトラム ショウガイ ノ チュウカク ショウジョウ ノ カイゼン

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抄録

【目的】自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disdorder:ASD)の病態要因として,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids:PUFAs)が注目されて久しい。ω- 3 やω- 6 の脂肪酸は神経発達,シナプス形成,シグナル伝達に重要な役割を果たしている。特にω- 6 のアラキドン酸はエイコサノイドというシグナル伝達誘導体を生成し,細胞間のシグナル伝達を行っている。したがって, ASD の病態として PUFAs の組成や代謝の異常が推定される。私らは脂肪酸濃度とシグナル機能バイオマーカーの変容を検索した。【方法】対象は ASD の 21 例(平均 13.1 歳)および年齢,性差がマッチした正常対照 21 例(13.9 歳)である。脂肪酸は 3 系統のファミリーがあるので,PUFAs のほかに一価飽和脂肪酸など 24 種類の脂肪酸と 3 種類のシグナル機能バイオマーカー[セルロプラスミン(ceruloplasmin:Cp),トランサミンシ(transferrin:Tf),スパーオキサイドデイスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)]の血漿濃度を測った。ASD の中核症状の評価には異常行動は Aberrant Behavior Checklist- J(ABC- J),社会性行動は Social Responsiveness Scale(SRS)を用いた。AA 濃度が低値であったので,これを補充するために,AA などω- 6 の前駆体のリノレン酸 480mg とω- 3 の前駆体のα-リノレイン酸 240mg を含む AA カプセル(12 歳以下は 1/2 量)を 16 週間投与した。【結果】ASD 群は対照群にくらべて,ω- 6 脂肪酸の AA 濃度が有意に低く,ω- 3 の EPA が有意に高値であり,DHA も有意差傾向(P = 0.08)を示した。EPA/AA と DHA/AA の比は有意に高かった。ASD 群は Cp 濃度が有意に低値であった。このように,細胞レベルで認められている AA-ω- 3 脂肪酸間の競合的関係が生体で内外ではじめて立証された。AA 製品服用後に血漿の AA と Cp の濃度が上昇して対照群との有意差が消失した。SRS の 4 項目と総合評価点が有意に改善した。【考察】ω- 3 脂肪酸の高値と関連した AA の低値がシグナル機能マーカーの Cp の機能低下を生じたと考えられた。このようなシグナル調整機能の異常が ASD の中核症状に関与したと推察された。AA 補充療法として,AA 濃度をさらに高めることで難治性の社会性行動障害を改善し得る。

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