医療における市場原理と計画原理の相互補完性

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  • How will we Complement the Market Principle with the Planning Principle in the Health Care Sector?

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説明

本研究の最終的な目的は,医療システム内のさまざまな取引の原理を市場原理と計画原理に分類し,この二つの取引原理の補完作用がシステムのパフォーマンスにどのように影響を及ぼすのかを知ることであるが,本稿ではその第一段階として,1)医師と保険者との間の取引関係,2)医療保険のアンダーライティング,3)営利病院と機会主義,に着目して,それぞれ以下の知見を得た。<BR>1)医師(医療機関)と保険者との関係に見られる市場原理と計画原理の補完関係<BR>(1) 医師のモラルハザードを抑制するためには医師と保険者との取引関係が計画原理に基づく場合の方が市場原理に基づく場合より効果が高いと考えられる。しかし,それが患者(保険加入者)の利益になるかどうかは保険者が患者の有効なエージェントとなりえるかどうかに依存する。<BR>(2) 医療システムの取引原理が市場原理か計画原理に過剰に依存している国は, カウンターパートの取引原理の導入によってパフォーマンスの改善を図ろうとする。具体的にはアメリカのマネジドケアの進展は市場原理に対する計画原理の導入と捉えられるし,イギリスのNHS改革は計画原理に対する市場原理導入のケースである。<BR>2)医療保険のアンダーライティングに関する市場原理と計画原理の補完関係<BR>(1)私的保険は危険選択による不平等の発生,逆選択や高い取引コストなどによる非効率を生じさせるためそれ単独で医療を保障している先進国はない。<BR>(2)多くの先進国では公的保険と私的保険を組み合わせることによって医療保険が行われている。組み合わせのパターンはいくつかに類型化でき,それぞれによって私的保険の財としての特性が異なる。<BR>3)市場原理と機会主義の関係情報の非対称性が存在し,第三者支払制度が介入する医療においては医療供給者に機会主義が発生する可能性がある。利潤動機が機会主義を誘発するという仮説に基づき,アメリカの病院の行動と所有形態との関係を観察すると,営利病院は非営利病院と比較して機会主義的行動がより多くとられていることがわかった。

収録刊行物

  • Iryo To Shakai

    Iryo To Shakai 8 (2), 183-206, 1998

    The Health Care Science Institute

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