マレーシア・ラジャン川の河岸侵食

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  • Bank Erosion along the Rajang River in Malaysia

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抄録

本稿では,マレーシアの最大河川ラジャン川において,近年進行している河岸侵食の実態を報告し,派生する問題について若干の考察を加える。流域面積約5万平方キロメートルを持つラジャン川の中下流域では,過去30~40年の間に河岸侵食が顕著に見られるようになった。観察および現地住民からの聞き取りによると,侵食を促す間接的背景として,河岸植生の変化,上流からの大量の土砂流入,浚渫などが挙げられ,直接的な契機としては,乾燥が続き土壌がひび割れた後の大雨や,洪水氾濫後の過剰間隙水圧のほか,船舶による航走波や流木の衝突などが考えられる。こうした侵食の影響を避けるため,河岸に位置する村々(ロングハウスという居住形態をとる先住民が多い)は,これまでに幾度もの移転を余儀なくされてきたが,近年では,土地不足や資金不足などにより移転さえも困難になっている。また,近隣の華人による土地の買占めが移転を困難にしている場合もあり,民族間の緊張関係を生み出すなど,社会問題としても顕在化しつつある。一方,現地住民の自己防衛策は非常に緩慢で,政府援助や国際協力に頼ろうとする姿勢が目立つ。こうした姿勢は中央集権化の過程で形成されたもので「補助金症候群」と揶揄される。このように,自然的要因だけでなく,社会的・政治的背景が複雑に絡み合うことで,先住民の脆弱性が増大し,レジリエンスが減退しているという現状が見られた。

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