精神病床長期在院患者の転院・死亡を考慮した退院状況の指標の検討

  • 小山 明日香
    国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部
  • 立森 久照
    国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部
  • 河野 稔明
    国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部
  • 竹島 正
    国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部

書誌事項

タイトル別名
  • An index of discharge excluding death and transfer to other hospitals or beds for long-stay inpatients from psychiatric hospitals
  • セイシン ビョウショウ チョウキザイイン カンジャ ノ テンイン シボウ オ コウリョ シタ タイイン ジョウキョウ ノ シヒョウ ノ ケントウ

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抄録

目的 わが国の精神保健医療福祉体系の再編の達成目標のひとつである「退院率(1 年以上群)」は,1 年以上精神病床に在院する患者の退院の指標であるが,家庭復帰や社会復帰施設等への退院だけでなく,転院や死亡も退院に計上して算出する。本研究では,「転院•死亡を退院に計上しない退院率」を算出し,地域移行のための指標としての意義を検討した。<br/>方法 平成14年度から18年度「精神保健福祉資料」に掲載されている集計値を用いて,「転院•死亡を退院に計上しない退院率」の地域格差の程度と全国値の年次推移をみた。また,各都道府県における従来の退院率および「転院•死亡を退院に計上しない退院率」と,各都道府県の精神病床在院患者特性や精神障害者の地域生活支援のための社会資源の充実度等との関連を検討した。<br/>結果 平成18年のわが国全体における退院率は23.0%であったのに対し,「転院•死亡を退院に計上しない退院率」は9.9%であった。過去 5 年間の推移をみると,退院率は微増傾向にあったのに対して,「転院•死亡を退院に計上しない退院率」はそれほど変化がなかったが平成18年には微増していた。「転院•死亡を退院に計上しない退院率」は退院率に比べて各都道府県における精神科在院患者の年代や疾患割合等の変数と相関が低かった。<br/>結論 精神病床の 1 年以上長期在院患者においては,退院患者に占める転院•死亡患者の割合が高く,退院率が必ずしも地域移行の指標となっていないことが明らかになった。また,近年長期在院患者の退院促進の必要性が広く認識されつつあるが,1 年以上の長期在院患者の地域移行は過去 5 年間であまり進んでいなかった。さらに,退院率は各都道府県における精神病床在院患者の年齢層や疾患の分布の影響を受けやすい指標であるのに対して,「転院•死亡を退院に計上しない退院率」はこうした患者特性の影響が少ないことから,各都道府県における退院促進事業や民間団体による長期在院患者の地域移行支援の取組みを反映している可能性が考えられた。これら二つの指標の定義や目的を理解した上で,用途や目的に応じて使い分ける,あるいは同時に用いることが必要である。

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