中学校で発生した集団有機リン中毒

永美 大志, 八百坂 透, 前島 文夫, 西垣 良夫, 夏川 周介

doi:10.14879/nnigss.58.0.75.0

〈はじめに〉有機リン系殺虫剤は最も多く使用される農薬 群の一つである。本学会関連病院から，２００８年夏に某中学 校で集団有機リン中毒が発生したとの情報提供があった。 中学生が搬送された４病院の協力を得て，本学会・特別研 究プロジェクト・農薬中毒部会として調査を行ったので， その結果を報告する。 〈方法〉当部会が策定した農薬中毒報告票に加えて，本事 例用に策定した質問票により調査した。 〈結果〉散布された農薬は，有機リン系殺虫剤メチダチオ ンの４０％製剤であり，通例は１，０００倍程度に希釈して使用 される。２００８年７月下旬，学校関係者がアリ対策のため， 原液を，１０～１１時頃に校舎近くのマンホールに散布した。 付近の教室内にガスが流入し，中学生たちが被害を訴え， 昼ごろから１６名が４病院に搬送された。また，１名が不安 を訴え，夜に受診した。 昼頃に搬送された１６名の訴えた症状を集計すると，「頭 痛」１３名（８１％），「吐気・嘔吐」１１名（６９％），「めまい」 ４名（２５％）などであった。コリンエステラーゼ活性値 （ChE）は，６名について来院時の測定結果が報告され， 全て正常範囲内であった。瞳孔径は，１５名について来院時 に観察された結果が報告され，全て正常範囲内であり，対 抗反射も異常なかった。３名が，経過観察のため入院した が，全員治癒し，後遺症は見られなかった。 〈考察〉中学校の教室付近で通常ありえない散布が行わ れ，その後に健康被害が発生したこと，訴えの多かった症 状が，「頭痛」，「吐気・嘔吐」であったことから，集団的 な有機リン中毒であることが強く疑われた。ただ，ChE， 瞳孔径については異常が見られず，軽症で止まったものと 推察された。 しかし，集団有機リン中毒であることはほぼ確実で，原 液をそのまま散布したことは，厳に戒められるべきであ り，再発防止が図られる必要がある。 調査にご協力いただいた医師および関係者に深謝する。

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