小脳梗塞による失調症に対する急性期理学療法
-
- 児玉 正吾
- 取手協同病院リハヒ゛リテーションセンター
この論文をさがす
説明
【はじめに】小脳血管障害による失調症患者は、姿勢の安定や随意運動遂行のために、さまざまな代償固定を行なう。代償固定が長期化すると全身を一塊として動作を行ない、選択的な運動が乏しくなる。また、回旋運動が困難になり動作のスムーズさが損なわれる。今回、代償固定の異常構築の予防を目的にSling Exercise Therapy(以下SET)と腹横筋ベルトを用いて、動作が改善したので報告する。<BR>【症例紹介】小脳梗塞により左不全片麻痺と失調症を呈した80歳の男性である。左中小脳脚に梗塞を認めた。発症後4日目より理学療法を開始した。<BR>【初期評価】:随意運動はBrunnstrom recovery stageにて手指V上肢V下肢IVであった。失調症テストは、指鼻試験、踵膝試験ともに測定障害が左側に認められた。寝返り、起き上がりは自立していた。立ち上がりはつかまれば可能で、院内の移動は車椅子にて自立していた。歩行は、セラピストが患者の前腕部を介助すると可能であった。<BR>【問題点】車椅子からの立ち上がりの際には、アームレストを支持して立ち上がり、立位になってもアームレストからすぐに手を離すことができなかった。歩行は、左下肢立脚期の支持性の低下と重心移動に伴ない体幹部が動揺するため、全身を固め、歩隔を広げてコンパス様であった。両脚支持期は安定するが、歩隔が広いため左右への重心移動距離が長くなり、重心の移動をスムーズに行ないずらく、両脚ともに下肢を急激に振り出していた。<BR>【理学療法】体幹部のスタビリティーを向上させることを目的に、腹横筋ベルトを肋骨下端に吸気に若干の抵抗になるように巻き、腹横筋の筋活動を活性化させた。四肢、体幹を固定し過ぎないようにするために座位、立位のバランス練習をSETを用いて行なった。スリングポイントを手部として、末梢部を適度に安定させて左右前後にリーチアウトするよう指示し、重心移動を自動運動として行なった。セラピストは骨盤部から重心移動を誘導し、柔軟な体幹の運動と四肢、体幹の回旋運動を誘導した。<BR>【結果】立ち上がり後半から、上肢をフリーにすることが可能となった。歩行は、独歩可能となった。病棟内は、シルバーカー歩行にて自立した。<BR>【考察】Hodgesらは、腹横筋の収縮が股関節や肩関節の運動方向に関係なく、主動作筋の収縮に先行していることを筋電図にて明らかにした。渡辺らは、腹横筋ベルトを装着することで、腹横筋の収縮を活性化し、即時的に片麻痺患者の歩容が変化していることを報告している。失調症により代償固定させていた状態が、腹横筋が活性化され体幹のスタビリティーが改善し、四肢の随意運動を行いやすくした。手指を空間で使う際には、手指より中枢部の関節を制御しなければならない。中枢部の関節を適度に固定させるためSETでは、スリングポイントを手部として下方向への安定性を与えた。ロープの軌跡上を運動することで、ロープの軌跡が運動方向の誘導となり、中枢部の過剰固定を軽減できる。SETは、下方向以外は自由に動くため、患者の主体的な重心移動が行ないやすくなり、代償固定を抑制するポイントとして、腹横筋の活性化とセラピストによる回旋運動を誘導したことが有効であったと考える。
収録刊行物
-
- 日本農村医学会学術総会抄録集
-
日本農村医学会学術総会抄録集 54 (0), 106-106, 2005
一般社団法人 日本農村医学会
- Tweet
キーワード
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680493984128
-
- NII論文ID
- 130006943871
-
- ISSN
- 18801730
- 18801749
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可