乗用トラクターによる農作業事故発生状況について

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抄録

[はじめに]<BR> 我が国の農作業事故による死亡者数は毎年400人前後で推移し、いっこうに減少する傾向が認められない。この農作業死亡事故の約3分の1を占めているのが乗用トラクターに関わるもので、これをいかに減らすかが大きな鍵となっている。そこで、演者らはトラクターによる事故防止の一助として、全国的にも農作業死亡事故が多い長野県内での乗用トラクターによる事故発生状況を把握する調査を行ったので報告する。<BR>[調査方法]<BR> 乗用トラクターによる農作業事故発生状況をJA長野共済連の普通傷害共済事故状況報告書(1998年度、2000年度、2003年度)と長野県による農作業死亡事故発生状況報告(1990年~2007年)から調査した。前者の普通傷害共済事故報告書3年度分約6万件からは農業に関係するもの計5,357件を抽出し、その中の乗用トラクターに関わるもの111件について分析を行った。また、後者の農作業死亡事故発生状況報告16年間の死亡例204件からは、乗用トラクターによるもの70件について分析した。<BR>[調査結果]<BR> 普通傷害共済事故状況報告書からの111件の概要を以下に示す。農業専従者が8割を占め、男性が約9割であった。年齢は65歳以上の高齢者が62%、その内70歳以上が約7割を占め、最高齢者は82歳であった。発生月は4月~6月が54%で最も多く、発生時間は9時~11時と16時~17時に多かった。作業内容は移動が30%で最も多く、次いで点検・整備、耕耘の順であった。発生場所は道路と畑がそれぞれ23%で最も多く、次いで水田、庭・自宅の順であった。発生原因はトラクターの転倒・転落が最も多く32%、次いで挟まれ、ロータリー部に巻き込まれの順であった。受傷部位は下肢が29%と最も多く、上肢、胸部、頭頚部の順であった。受傷内容は骨折が33%で最も多く、次いで挫創・挫傷であった。死亡は7件あり、多くがトラクターの下敷きによる圧迫や窒息によるものであった。安全キャブ・フレーム装着の記載は事例すべてになかった。<BR> 農作業死亡事故発生状況報告からの70件の概要を以下に示す。農業従事者が7割を占め、すべて男性であった。65歳以上が56%を占め、その内70歳以上が約8割、80歳代は6件で、88歳が最高齢であった。作業内容は移動が59%、耕耘31%であり、発生場所は道路が29%、農道23%、次いで畑、水田の順であった。発生月は5月が31%と最も多く、4月、11月と続く。発生時刻は9時~11時と15時~18時が多かった。発生原因はトラクターが転落・横転して運転者が下敷きなるが78%で、運転者がトラクターから転落してロータリーに巻き込まれるが9%となっていた。トラクターの下敷きになった事例の半数が胸部圧迫やそれによる窒息であった。安全キャブ・フレーム装着は6件5.7%あったが、その内の2件はシートベルトを締めておらず、別の1件は可倒式フレームを倒したままであった。<BR>[まとめ]<BR> 今回の調査から、乗用トラクターによる農作業事故が高齢者により、移動時に多発生し、機体の転落で運転者が下敷きになること、機体に安全キャブ・フレーム装着がほとんどないことなどが再確認された。今日の農業が高齢化、沈滞化している中で、高齢者自身に運転適正能力の有無を自覚させる方法の開発や安全キャブ・フレーム装着の推進をいかに進めるかが今後の課題である。

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  • CRID
    1390282680494066432
  • NII論文ID
    130006943968
  • DOI
    10.14879/nnigss.56.0.137.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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