脳浮腫あるいは、重症横紋筋融解症をきたした重症水中毒の2例

Description

〈諸言〉水中毒とは、体内が水過剰な状態になり、水分が細胞内まで広がり、浸透圧の低下や細胞の膨化を生じた状態である。水中毒の症状としては、頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害、精神症状、麻痺性イレウスなどがあり、発見が遅れれば死に至ることもある。これらの症状の原因は、低ナトリウム血症による脳浮腫、腸管の障害であると考えられている。水中毒は精神病患者に多いことが知られており、詳しいことは不明だが、抗精神病薬の副作用とバソプレッシンの持続的分泌が関係するという説がある。つまり、抗精神病薬の長期投与によって視床下部の口渇中枢およびバソプレッシン分泌細胞のドーパミン受容体感受性が亢進する。このため口渇とバソプレッシン促進によって腎臓からの水分再吸収が盛んになり血漿浸透圧が減少するが、ナトリウムの再吸収は行われないため低ナトリウム血症を引き起こすとされる。今回我々は、脳浮腫あるいは、麻痺性イレウスおよび重症横紋筋融解症をきたした重症水中毒の2例を経験したので報告する。〈症例〉症例1は、55歳女性。身長160cm, 体重55kg, BMI 21.5。統合失調症で近医精神科病院に入院していた処、意識レベル低下III-300、全身痙攣、嘔吐と状態悪化し、当院に搬送された。検査上、血清Na108mEq/l, K3.3 mEq/l,Cl 77 mEq/l, BUN6.8mg/dl, Cre 0.2mg/dl, CPK518 IU/Lと重度の低Na血症を認めた。さらに、血清浸透圧254mOsm/kg/H2O, 尿浸透圧139mOsm/kg/H2O, ADH 2.9pg/ml, 尿中Na4 mEq/lおよび、頭部CT上、重度の脳浮腫、腹部X線上、麻痺性イレウスを認めた。これらの結果より、脳浮腫および麻痺性イレウスをきたした重症水中毒と診断した。治療としては、高張食塩水の点滴、マンニトール製剤の投与、水制限を行ったところ、序々に低Na血症は改善し、脳浮腫、麻痺性イレウスも消失し、中心性橋脱髄症候群等の後遺症も無く回復した。症例2は、54歳男性。身長165cm, 体重58kg, BMI 21.2。統合失調症で近医精神科病院に入院していた処、意識レベル低下I-3、腹満、肉眼的血尿を認め、当院に搬送された。検査上、血清Na112mEq/l, K3.5 mEq/l,Cl 82 mEq/l, BUN10.5mg/dl, Cre 0.8mg/dl, CPK 226181 IU/L (MM型99%), GOT1362IU/L,GPT333IU/L, LDH6308IU/Lと重度の低Na血症および高CPK血症、肝機能異常を認めた。さらに、血清浸透圧265mOsm/kg/H2O, 尿浸透圧152mOsm/kg/H2O, ADH 2.7pg/ml, 尿中Na10 mEq/l,血中ミオグロビン>3000ng/ml, 尿中ミオグロビン>3000ng/mlおよび、腹部X線上、麻痺性イレウスを認めた。これらの結果より、重症横紋筋融解症および麻痺性イレウスをきたした重症水中毒と診断した。治療としては、高張食塩水の点滴、水制限を行ったところ、序々に低Na血症は改善し、横紋筋融解症、麻痺性イレウスも消失し、腎不全等の後遺症も無く回復した。〈考察〉当症例のように、水中毒は、精神病患者に多いことが知られているが、抗精神病薬を服用していなくとも、極端な水分の摂取をすれば誰にでも水中毒は起こり得る。実際、健常人でも大量の水を飲むことを競うイベントにて、水中毒による死者を出してしまった過去の事例が報告されている。水中毒は、発見が遅れれば、命取りになる病気であること。また、重度の水中毒に対して、急激なNaの補正治療は、中心性橋脱髄症候群を発症させ命取りになることから、慎重なNaの補正および低Na血症に併存する合併症を考慮した治療が必要であると考えられた。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680494452352
  • NII Article ID
    130006944376
  • DOI
    10.14879/nnigss.57.0.166.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top