農作業事故に学ぶ安全管理対策

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抄録

1.農林業は事故発生率が最高、建設業よりも危険な業種に陥った<BR>農林業の事故発生率は業種別に労働者1000人の事業場に換算して、1年間に39人が事故を起こし、全業種平均の3人を大きく上回り全産業の中で最高となっている。<BR>農作業事故の主な要因は(1)就農者の高齢化による不安全行動(2)傾斜地等の農作業現場の不安全状態及び酷暑等の環境(3)一人作業による安全管理の欠陥などの農業構造要因が関与している。しかも、これらの構造改善は不可能であるため、今後とも事故発生率が高まることが懸念される。<BR>2.農作業事故死だけが増え続ける<BR>この35年間、農作業事故死だけが減らないことは重大な問題である。年平均386人が農作業の犠牲となっている。他産業の労災事故死は行政指導や企業、地域の事故を防ぐ安全管理活動の効果により年々急ピッチで減少してきており、農作業事故死だけが減らない現状は農業政策的にも、農業者を組織しているJAにとっても放置できない事態となっている。<BR>3.農作業事故発生メカニズムの検討<BR>  農作業事故はなぜ、どうして起きるのか。主な事故要因は(1)経営者の安全管理の欠陥(2)農業者の不安全行動(3)作業現場における不安全状態(4)欠陥機械の4つが挙げられる。<BR>事故発生原因を究明する上で1995年に公布された製造物責任法(PL法)の存在は大きい。事故が起きたら、先ずこの機械・施設の構造設計上に欠陥がなかったかを追求することが必要である。欠陥機械を稼動させれば事故発生は必至であり、事故を防ぐことは不可能である。米国における農業事故は既に「訴訟社会」を形成している。日本でも自動車や各種機械の欠陥が世間を脅かしている。欠陥機械は重大な事故原因と指摘せざるを得ない。<BR>4.農家でも人を雇えば安全配慮義務がある<BR>  パートやアルバイトなど人を雇えば、安全だけでなく、快適に働かせなければならない安全配慮義務を負っていることは、これまでの裁判で判例が確定している。<BR>個別農家のみならず、農業法人、集落営農組織の代表者は安全配慮義務を具体的に尽くす必要がある。同義務を怠り、人身事故が起きた場合には、債務不履行責任(民法第415条)によって損害賠償責任が問われることになる。<BR>5.結論<BR>日本の全産業の中で農林業の事故発生率が最高であることを実証した。この対策は、先ず全農家が農業のリスクマネジメントに取り組むべきである。具体的には、事故補償を確保する労災保険やJAの農作業中傷害共済に全農家が加入することである。<BR>事故対策は、農家個人任せでは減少しない。健康管理活動が集団検診を組織的に推進して成功しているように、農作業事故防止対策も安全を作り出す地域農業の安全管理活動の組織的な展開が必要である。今後、産学官の連携とJAのリーダーシップにより、事故防止の現地モデル地区を設定し、農業の安全文化を築くべきである。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680495003136
  • NII論文ID
    130006944756
  • DOI
    10.14879/nnigss.57.0.52.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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