パンデミック時における医療機関の対応と問題点
抄録
2007年4月から6月にかけて、10代後半~20代の青少年層を中心に全国規模で麻疹が流行し、大学が各地で学校閉鎖になったことをマスコミが大きく取り上げて社会問題となった。医療現場では、医療従事者が知らないうちに曝露されその後発症したり、そもそも入職時の検査で麻疹抗体陰性と知りながらワクチンを接種していなかったことが判明したりと、さまざまな問題が発生した。また、検査試薬やワクチンが市場で枯渇し入手困難となったが、たとえ入手できたとしても、誰を優先的に検査又は接種するのか等の対応に迫られた。陰圧個室を有さない医療施設内では、入院患者が麻疹を発症した場合にどのような感染制御を行うべきか等が議論された。 さて、人類にとって初めて遭遇する感染症、すなわち新興感染症であるパンデミックが発生した場合に、医療機関ではどのような対応をとるべきなのか? SARS対応の経験や今回の麻疹事例での医療機関の教訓は、そのまま生かせるのであろうか?この命題に答えるために、我々はパンデミック発生のシナリオを作成し、経時的に派生するさまざまな問題点を案出し、その対応策について検討した。 インフルエンザは、発症早期から人への感染性を有するため、各施設の外来でトリアージを行っても院内への持込を防げないことが、SARSとの相違点の1つである。個々の医療機関では、“海外渡航歴や鳥との接触歴が無い人でのインフルエンザAの急増”という現象に遭遇するであろう。この情報は、バイオテロの兆候の場合と同様、保健所又は地方感染症情報センターへ速やかに通報され認知されることが対応の第1歩となる。しかし、パンデミックが冬季に発生すれば季節性のものとの区別が困難であるばかりか、迅速診断キットの感度の問題や試薬の供給の問題で、現場が混乱することが予測される。 パンデミックへの医療対応は、個々の医療機関での取り組みも重要であるが、地域診療圏における役割分担、すなわち(1)発熱外来等又は重症度のトリアージを行う医療機関(又は、医療スタッフを派遣する施設)(2)重症のパンデミック患者を引き受ける医療機関、(3)非インフルエンザ患者へ対応する医療機関、の中でどの分野を担当するのか重要である。トリアージは、自治体や保健所等と連絡しながら適正で、しかも柔軟に運用しなければ、地域住民の中でパニックが生じる。医療機関では、多くの職員が欠勤することになると予測されるため、保持すべき病院機能を考慮して、人員の再配分を行わなければならない。そのためにも、意思決定部門(病院長、理事長等)との緊急連絡網がうまく機能するよう整備しておく必要がある。その他、マスクやガウン等のPPEの備蓄とその使用基準、院内アウトブレイク時のコホーティング要領、入院機能の維持のために必要最小限のライフラインの備蓄(水、食料等)、マスコミへの広報と対応(職員の教育等)についても準備しておくことが重要である。
収録刊行物
-
- 日本農村医学会学術総会抄録集
-
日本農村医学会学術総会抄録集 56 (0), 371-371, 2007
一般社団法人 日本農村医学会
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680495139328
-
- NII論文ID
- 130006944930
-
- ISSN
- 18801730
- 18801749
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可