維持期における左半側空間無視例の臨床経過

書誌事項

タイトル別名
  • 行動場面の変化に着目して

説明

【はじめに】<BR>左半側空間無視(以下左USN)は急性期に最も改善がみられ、特に梗塞例で運動麻痺が比較的軽度の症例は経過の中で消失することが多いとされる。しかし、脳の広範囲な損傷により維持期においても左USNが重度に残存している症例も多く経験する。維持期における左USNの治療効果に関しては不明な部分も多く症例の積み重ねが必要である。今回、発症後6年経過した左USN例に対し2年間のアプローチを行った結果、行動場面の改善を認めた症例を経験したので報告する。尚、本研究にあたり患者へ説明し同意を得た。<BR>【症例】<BR>60歳代男性、右手利き。現病歴:2005年右中大脳動脈瘤破裂、くも膜下出血の診断。急性期、回復期病院を経て発症後3年にて当病院に転院となる。<BR><発症後3年>神経学的所見;運動麻痺Br-stage左上肢I 手指I 下肢II、感覚障害は表在、深部とも重度鈍麻。神経心理学的所見;HDS-R17点、USN;机上検査では線分2等分線試験は正中から30_mm_右に偏位、線分抹消試験10/40、図形模写試験は全体が右に偏位し、長方形の左半分が描けない。行動場面では声かけにて左側を向けない。車椅子駆動時に左側にぶつける。食事場面では左半分を残すため右側への配置が必要。基本動作:端坐位は中等度介助、その他全介助。 ADL:FIM;35点<BR><アプローチ>理学療法:左側への注意喚起、頸部の可動性改善、基本動作訓練。病棟:主に食事場面のセッティングの工夫、左側からの声かけを日常的に実施。<BR> <発症後5年>神経学的所見;著変なし。神経心理学的所見:HDS-R18点、USN;机上検査では線分2等分線試験は正中から16mm右に偏位、線分抹消試験17/40 図形模写試験は長方形の左半分が描けない。行動場面は、声かけに対して左側を向くことが可能。車椅子駆動時に左側をぶつけることが軽減し駆動距離も増加した。食事場面では右側へ配置しなくても摂取可能となった。基本動作:端坐位保持は見守りにて可能、坐位耐性の向上認める。ADL:FIM;37点<BR>【考察】<BR>豊田らは維持期の重度左USN残存例において、数ヵ月後に机上検査の改善はみられないものの、日常生活上の左USNが著しく改善した例を報告している。この要因として左側にテレビを置くなど絶えず無視側への注意を喚起するような環境設定が重要であるとしている。本例は2年間のアプローチの結果、食事動作場面で左側の食器に手を伸ばす等、行動場面において左側への認識が可能となった。これは身体機能へのアプローチに加え、他職種からの左側への注意喚起を日常的にかつ反復して行った結果であると考えられた。日常生活上において自発動作が繰り返し行える環境設定や注意を促す支援も維持期の左USNには効果的であることが示唆された。今後も左USNに対する報告を重ね、より有効な支援の在り方を検討していく必要がある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680505354752
  • NII論文ID
    130006950861
  • DOI
    10.14901/ptkanbloc.30.0.292.0
  • ISSN
    2187123X
    09169946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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