認知症高齢者における排泄誘導の効果

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【目的】認知症高齢者の多くに失禁やトイレ動作が自立して行えないといった排泄障害がみられ,ケアの最たる問題点の1つになっている.本研究では,排泄障害のある認知症高齢者に対して,定時刻に一定の環境下で排泄誘導を継続することで動作が学習・習熟され,それが施設内の日常生活活動(以下ADL)や認知機能の改善につながるかを検証する. 【方法】老人保健施設の入所者で,トイレ動作が自立して行えない認知症高齢者14名(男性4名,女性10名,平均年齢85.7±6.6歳)を対象に4回/日,それを1日おきに3日/週を3週間(計36回),定時刻に理学療法士がトイレに誘導し,排泄介助を実施した.介助する際には,次の動作を確認する声かけを行い,動作が上手に行えたときには褒める等の増強法を併用した.また個別対応を徹底するために,同時期に介入する人数は3名を限度とした.評価項目は,独自に作成したトイレ動作評価シート,高齢者用多元観察尺度(以下MOSES),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を採用した.評価は介入前,3週間の介入終了時,および介入終了時から3週間を経た時の3時点で行った.統計学的分析には,Friedman検定およびWilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした. 【結果】36回の誘導に対して,実際にトイレで便座に座った回数は28~36回(平均33.4±2.9回,実施率77.8~100%)であった.介入後の失禁頻度に改善はみられなかったが,トイレ動作評価シートの得点は有意に改善(p<0.01)した.MOSESについては,総合得点と引きこもり下位尺度に有意な改善(p<0.01)がみられた.HDS-Rについては,有意な変化は認められなかった.また介入期間中には,自発的な発話の少ない対象者から介助者に対して「ありがとうね」という感謝の言葉がかけられたり,介護職員から「移乗のときに立つのがよくなってきた」との声があがる等,介護場面での質的な変化もみられた. 【考察】介助者を含めた周辺環境を一定にし,その中で対象者の能力を引き出すようなトイレ動作を繰り返し行うことで,認知症高齢者であっても動作能力は向上することが示唆された.また増強法等のコミュニケーションを伴った身体活動が認知症高齢者にとって快刺激となり,施設内での生活に良い影響を及ぼすと考えられた.さらにトイレ動作評価シートやMOSESの点数には反映されなかったが,移乗等の場面で介助量が軽減され,一時的であるにせよ介入が施設内ADLの改善につながったと考えられた.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680505553792
  • NII論文ID
    130006950962
  • DOI
    10.14901/ptkanbloc.28.0.9.0
  • ISSN
    2187123X
    09169946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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