糖尿病性神経障害の正しい理解のために

説明

糖尿病性神経障害は多彩な臨床像を呈し、患者のQOLを大きく損なう病態である。従って、効果的な治療のためには的確な病態把握が必要である。特に自律神経障害は突然死の原因となり患者の生命予後に深く関与し、疼痛・しびれ感などは日常生活を制限する。一方、無症状でありながら神経障害を有する患者も多く、神経障害の診断には神経学的検査が必須である。さらに、日常診療で観察される糖尿病患者の神経症状は主要病型であるポリニューリパチーのみならず、糖尿病に起因するモノニューロパチーや他の原因によるモノ、ポリニューロパチーが関与している場合がある。特に頚椎症や腰椎症に起因する根神経症の関与は大きく、患者の病態把握・管理上、注意を要する。一方、ポリニューロパチーの発症・進展の予防には血糖コントロールの正常化と成因に基づいた本質的治療薬の投与が必要である。この際、神経組織の非可逆性を考慮すると早期から治療薬を投与する必要があるが、治療効果の確立した薬物は開発されていない。これまで、多くの薬物の臨床的効果が検証されてきたが、我が国で臨床応用が現実となっているのはアルドース還元酵素阻害薬のみであり治療効果も絶大ではない。現在、糖尿病性神経障害の成因は多因子が考慮され、仮説に基づき多くの治療薬が開発・検討中である。有効な薬物が開発されても何を指標に投与を開始するかのなどのコンセンサスもいまだ確立されていない。今後、診断基準と病期分類に基づく治療マニュアルの策定が待たれる。他方、患者管理の面からは対症療法も重要である。何れにしても、早期からの治療のためには、出来ればpoint of no returnを越えない時点で早期診断し治療を開始するのが望ましい。その意味でポリニューロパチーの自然史の解明が必要であり、その際、軽微な神経機能異常を検出する方法の開発と診断への応用についての検討も併せて実施する必要がある。機器を用いた糖尿病性神経障害の検査の意義には、1)神経伝導検査などのようにニューロパチーの存在を客観的に確認する。2)神経伝導検査、振動覚閾値、心拍変動係数、モノフィラメントなどのように診断基準の一環として実施する。3)瞳孔計、皮膚生検などのようにニューロパチーの早期発見のために行う、などがある。特に皮膚生検では糖尿病性神経障害の早期の病理学的所見が観察しうる。また、神経伝導検査では検出できない小径線維障害としての有痛性神経障害の診断に有用性である、などの利点がある。特に表皮に分布するのは主に無髄線維終末であり、糖尿病性も含めた有痛性神経障害で神経伝導検査では異常のない状態で形態学的異常を呈することが報告されている。本レクチュアでは糖尿病性神経障害を正しく理解していただくことを目的に置き、糖尿病性神経障害を有する糖尿病患者の療養指導において知っておくと役に立つ基本的知識のポイントを概説し、患者ケアに役立てていただきたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680523962496
  • NII論文ID
    130006952954
  • DOI
    10.11213/aexz.39.0.91.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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