免疫毒性を中心とした医薬品の安全性評価系に関する研究

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タイトル別名
  • Research on safety evaluation of pharmaceuticals especially for immunotoxicity

抄録

1977年にオランダ国立公衆衛生研究所(現・オランダ国立公衆衛生環境研究所)のJosef G. Vos が、“Immune suppression as related to toxicology”という総説を発表している。初めて免疫毒性を体系的に記述したものではなかろうか。2017年でちょうど40年が経ったことになる。米国でも同じ時期にNational Toxicology Program の取り組みとしてMichael I. LusterとJack H. Deanを中心に免疫毒性評価法が検討され、1985年には米国毒性学会に Immunotoxicology Specialty Section が設立された。このような評価法の検討が続けられていたなか、環境化学物質の免疫毒性評価が行われはじめていた。<br> その頃、日本では抗原性試験が医薬品の製造販売承認申請要件であり、1988年にはガイドライン案も公表された。私も数多くの試験を実施した。抗原性試験にとって悲劇であったのは、基本的に特異体質的素因のある人を想定し薬物アレルギーが誘発されるかを評価するためのものであったのだが、アレルギーに関する理解が十分になされないまま曝露集団全体での予測と捉えられたことであった。簡素化され明らかに陰性の結果となる抗原性試験が続けられていたことは問題と考えた。<br> 1992年に英国Babraham Institute のMarion D. Kendall教授のもとで“Functional anatomy of the thymic microenvironment”について勉強した。基礎研究が重要だと考えたからである。1994年には日本免疫毒性研究会(現・日本免疫毒性学会)が発足した。2000年に欧州医薬品庁(現・欧州医薬品審査庁)は免疫毒性試験法ガイドラインを制定し、全ての医薬品に免疫機能検査を求めた。米国FDAや日本の考え方は、Vosのそれに近く標準的毒性試験の結果などをもとに免疫機能検査を行うというものであった。免疫機能と病理所見を比較するための共同研究を主宰し態勢を整えつつ、ICHでのトピック化を決断し2003年に実現させた。免疫毒性が国際的にも大きな関心を引くきっかけになったのではないだろうか。<br> そして2017年、免疫毒性学が大きく変わることを予感している。免疫担当細胞にもホルモンなどの受容体が存在し、妊娠に伴う胎盤形成や胎児の受け入れにも免疫機能が関わっている。これらのことは、以前からわかっていたのであるが、曝露物質起因性の自己免疫や生殖発生毒性とも関連する。動物で自己免疫を捉えることは容易ではないが、薬物クラスによってはヒトでの自己免疫疾患の発症や悪化を議論することはできる。生殖発生毒性に関しては、胚・胎児損失と免疫毒性が関連づけられる場合がある。物質の胎盤通過性も評価には影響してくる。また、1963年に提唱されたGell and Coombs のアレルギー分類にも新たな考えが加わり、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の修飾によるp-iコンセプトも知られるようになった。自己免疫も、p-iコンセプトで説明されたり、薬物によって非自己化された自己に対する「正常な」免疫反応によるものであったりする。病原体と自己抗原との分子相同性による自己免疫誘導なども考えるとワクチンの安全性評価も課題となるであろう。核酸医薬品によるTLRを介した炎症作用も考慮される。<br> このように、従来の直接的な免疫抑制・亢進では説明できない「免疫毒性」がある。また、「免疫毒性」は他の毒性とも関連づけられて議論される。しかし、今まだ、それらは免疫毒性学の領域として十分に認識されていない。基礎研究を通じて応用科学である免疫毒性学をさらに発展させたいと考えている。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680525063296
  • NII論文ID
    130006581842
  • DOI
    10.14869/toxpt.44.1.0_ga
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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