硫化水素中毒の現状と対策

  • 伊関 憲
    福島県立医科大学医学部救急医療学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Current state and measure of hydrogen sulfide poisoning

説明

硫化水素は自然界に広く存在する毒性ガスで、腐乱臭を呈し空気よりやや重い。火山帯や温泉で発生する他にも、下水道、ゴミ処理場、石油精製工場などでも発生する。硫化水素は人体に対して吸入濃度により様々な症状を発現する。チトクロムオキシダーゼ阻害の作用だけではなく神経毒としての作用があり、高濃度の硫化水素を吸入すると中枢神経系へ素早く移行する。特に呼吸中枢を含む、脳幹に選択的に取り込まれ、1000ppm以上を吸入した場合、意識消失、呼吸停止を来たし死亡する。<br> 硫化水素中毒の原因は、自然災害、労働災害、自殺に分けることができる。自然災害の典型的な被害は温泉地や火山帯での事故である。火山地帯で無風、曇りなどの天候と窪地の条件により硫化水素が高濃度になり、立ち入った観光客などが被害に遭っている。温泉では2014年に北海道足寄温泉での硫化水素事故以来、環境省では入浴施設での規制を行っている。しかし、源泉では依然として高濃度の硫化水素の中で勤務が行われ、温泉管理者に対しての対策が取られていない。<br> 労働災害ではマンホールでの硫化水素の事故が年間数例発生している。現場では高い硫化水素濃度だけではなく低酸素環境のため、死亡者が発生する。このような環境で作業する場合には酸素濃度18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下であることが求められている。<br> 自殺については、日本国内で2008年に硫化水素自殺が頻発した。警察庁の発表では2008年1月から11月での自殺者は1007名になったとされている。これは硫化剤の六一〇ハップ(または石灰硫黄合剤)と酸性洗剤のサンポールを混ぜて発生させている。日本では下火になったものの、この硫化水素自殺は海外に波及し、アメリカやイギリスでも同様の事例が頻発している。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680525206656
  • NII論文ID
    130006582381
  • DOI
    10.14869/toxpt.44.1.0_s3-1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ