低濃度のヒ素がHepG2細胞のエリスロポエチン産生に及ぼす影響

DOI
  • 桐山 直毅
    大阪府立大学生命環境科学域獣医学類毒性学教室
  • 西村 和彦
    大阪府立大学生命環境科学域獣医学類毒性学教室
  • 中川 博史
    大阪府立大学生命環境科学域獣医学類毒性学教室

書誌事項

タイトル別名
  • Effect of low level arsenic on erythropoietin production of HepG2 cell

抄録

ヒ素による米などの食品に対する汚染が原因の中毒は世界各地で報告されており、深刻な社会問題となっている地域も存在する。ヒ素の慢性毒性の症状には、皮膚癌、腎臓癌、肝障害、壊疽などがあり、そのひとつとして貧血も挙げられるが、その発生機序については明らかになっていない。貧血からの回復の際に、主に腎臓や肝臓から分泌される造血作用を持つホルモンであるエリスロポエチン産生の増加が必須である。カドミウムやプラチナなどの重金属も、エリスロポエチンmRNA発現を抑制して貧血を起こす事が報告されている。ヒ素は甲状腺ホルモン、エストロゲン、テストステロンなどさまざまなホルモン産生に影響を与える事が報告されているが、エリスロポエチン産生に対する影響は不明である。そこで、ヒ素がエリスロポエチン産生に影響を与えているのかを明らかにするために、エリスロポエチン産生モデル細胞として広く用いられているHepG2細胞に対するヒ素の影響を解析した。HepG2細胞にヒ酸を添加したところ、100 µMまでの濃度では24時間後のエリスロポエチンmRNA発現が用量依存的に増加した。100 µMのヒ酸添加によるエリスロポエチン産生の増加は、エリスロポエチンmRNA発現を誘発させる物質として知られているコバルトを100 µM添加した場合と同程度であった。また、1000 µMのヒ酸を添加したところ、24時間後のエリスロポエチンmRNA発現が有意に減少した。MTT法により細胞活性を調べたところ、100 µMのヒ酸を添加しても、細胞活性に影響はなかったが、1000 µMのヒ酸を添加したところ、細胞活性が低下した。100 µMのヒ酸によるエリスロポエチン発現促進作用はヒ酸を添加してから72時間まで持続した。以上の結果からHepG2細胞において、高濃度のヒ素では細胞障害が起こり、エリスロポエチン産生を低下させるが、低濃度のヒ素では細胞障害が起こらず、エリスロポエチン産生を増加させ、その作用は、72時間は持続することが示唆された。毒性が出ない低濃度のヒ素は造血促進を含む生理機能を持つと考えられた。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680525685376
  • NII論文ID
    130006581959
  • DOI
    10.14869/toxpt.44.1.0_p-176
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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