ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHへのサリン類似有機リン剤の毒性作用

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タイトル別名
  • The effect of a sarin-like organophosphorus agent on human neuroblastoma cell line SK-N-SH

抄録

【目的】1995年に神経ガスのサリンを使用した地下鉄サリン事件が発生した.その当時重度な中枢神経障害を負った被害者は,今も後遺症・神経症状に悩まされている.サリンは急性毒性としては,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である.その遅発性神経毒性の作用機序は分かっていないが,アセチルコリンエステラーゼ阻害以外の効果が毒性に関与していると考えられる.サリンなど毒性の高い有機リン化合物の合成および使用は法や国際条約において規制されている.本研究では我々が合成した,サリンと同一のリン酸基を持つ揮発性の全くない有機リン剤bis (isopropyl methyl) phosphonate (BIMP) を使用した.サリンによる遅発性毒性の神経系細胞への効果をみるため, BIMPのヒト神経芽細胞腫SK-N-SH細胞への毒性効果及び,レチノイン酸添加によって神経細胞へ分化させたSK-N-SH細胞への効果を検討する.【方法】SK-N-SH細胞はFCS 10%を含むMEMα培地で継代培養した.様々な濃度のBIMPを添加し,MTTアッセイ法により細胞生存率より,毒性効果を検討した. 培養した細胞(2.0x105 cells /ml)に傷を入れ,BIMPの創傷治癒への影響を観察した(スクラッチアッセイ).神経細胞へ分化させるため, FCS 5%を含むMEMα培地で細胞培養 (5.0x105 cells /ml).3日ごとに培地交換とレチノイン酸,NGF,BDNFの添加を行った.【結果・考察】MTTアッセイ法による毒性の効果で, BIMPを添加すると細胞生存率が下がった.また,BIMP添加後24時間のIC50は44 µMであった.スクラッチアッセイの結果は,細胞に傷を与えてから48時間後, BIMP添加なしの細胞修復率約90%に対し,BIMP100 µMは約45%と細胞修復率が低くなった.神経細胞へ分化させた細胞 に対するBIMPの効果で48時間後, BIMP添加なしの細胞修復率約80%に対し, BIMP100 µMでは約43%であり修復率は低くなった.この結果から,BIMPはSK-N-SH細胞及び,神経細胞へ分化させた細胞 に対する細胞修復率に影響を与え,BIMPはアセチルコリンエステラーゼ阻害以外の効果でSK-N-SH細胞に毒性を示すことを明らかにした.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680526169088
  • NII論文ID
    130005483314
  • DOI
    10.14869/toxpt.42.1.0_o-11
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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