環境中親電子物質によるタンパク質の化学修飾を介したシグナル伝達活性化

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タイトル別名
  • Activation of redox signal transduction pathways mediated by environmental electrophiles through covalent modification

抄録

酸化ストレスや炎症時に活性酸素種および一酸化窒素(NO)が産生され、それらは生体内成分(環状ヌクレオチド、必須脂肪酸、神経伝達物質、プロスタノイド等)と反応して内因性親電子物質を生成する。親電子物質は分子内に電子密度の低い部位を有するために、タンパク質のシステイン残基のような求核置換基と共有結合してタンパク質付加体を形成する。たとえば、親電子物質により反応性チオール基を有するセンサータンパク質は化学修飾を受けて、当該タンパク質により負に制御されている応答分子(キナーゼ、転写因子等)は結果的に活性化される。<br> 一方、大気汚染物質、米や魚等の食材や食品中に多種多様な親電子物質が存在し、これらの生体内侵入で生じる有害反応が危惧されている。我々はカリフォルニア地区で採取したPM2.5サンプルから新規の大気中親電子物質として1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)を同定し、本物質の生体影響を検討した。予想したとおり、1,2-NQは濃度依存的に細胞内タンパク質をS-アリール化して高濃度で細胞死を生じたが、有害性が観察されない条件下において、モルモット気管リングを用量依存的に収縮した。興味深いことに、この薬理作用発現には上皮成長因子レセプター(EGFR)の活性化が関係していた。上皮由来A431細胞等を用いて検討した結果、1,2-NQはセンサータンパク質であるプロテインチロシンフォスファターゼ1BのCys121をS-アリール化することで本酵素活性を低下し、結果的に応答分子EGFRを活性化することが明らかとなった。同様な反応はKeap1-Nrf2系だけでなく、HSP90/HSF-1シグナルのようなレドックスシグナル伝達経路でも観察された。さらに、メチル水銀やカドミウムのような公害の原因物質として知られている環境中親電子物質でも、低濃度ではレドックスシグナル伝達の活性化(模倣)および高濃度では当該シグナル伝達の撹乱が認められた。一連の研究成果は、環境中親電子物質の濃度に応じた二面性を示唆している。

収録刊行物

詳細情報

  • CRID
    1390282680526204416
  • NII論文ID
    130005483760
  • DOI
    10.14869/toxpt.42.1.0_s15-3
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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