神経モビライゼーションが関節可動域に及ぼす影響
-
- 芳川 晃久
- 長野医療生活協同組合 長野中央病院
説明
はじめに:理学療法として扱う関節の構成軟部組織の全てが関節可動域の制限と成り得、治療する場面も多い。中でも近年神経系のモビライゼーションが本邦に紹介され臨床で使われ始めている。しかし、実際に神経系のモビライゼーションが関節可動域に与える影響の報告は、本邦ではほとんどない。そこで今回、下肢伸展挙上(以下SLR)による神経モビライゼーションを行いSLR角度の変化を検討したのでここに報告する。方法:腰部と股関節に問題のない健康な人17名(男性4名、女性13名21から54歳、平均30.2歳)を対象とし非軸足を測定した。被験者は仰向位で骨盤、反対側下肢(大腿部、下腿部)を代償運動予防に治療ベッドのベルトで固定した。股関節の屈曲は、被験者をできるだけリラックスさせ、同一のセラピストが他動的に、(1)被験者が許容できる最大屈曲を行い測定し、(2)神経モビライーゼションとしてSLR+背屈を施行する。施行張力の強度は本人が最大限絶えられる強度から小さな動きを伴い張力が維持される、いわゆるGrade4で10秒間とした。測定には、デジタルカメラを用い大転子部、大腿骨外顆中央部、にランドマークを設置し、神経モビライゼーションの施行前後でのSLR角度変化を撮影し印刷後角度を測定する。基準線は測定ベッド面とし、移動線は大転子と外顆を結ぶ大腿骨長軸線としその変位を比較した。 結果:全例でSLR角度が増加し、(1)神経モビライゼーション施行前最大SLR角度は平均83.9度(71から114度)、(2)神経モビラーゼーション施行後、平均95.2度(78から118度)。角度増加量は平均11.3度(4から23度)であった。神経モビライゼーションを施行した印象は施行前SLRのエンドフィールの抵抗感少なく感じられたものは角度変化が大きく、抵抗感の大きかったものは角度変化が少ないように感じられた。 考察:今回の実験において神経モビライゼーションによってSLR角度は増大したが平均11.3度その理由として神経の解剖学的な特長は、関節運動に対する順応としては境界面で神経が末梢側にスライドし、緩みがなくなった時点から神経束自体が伸張されていく。神経自体の順応は急激なストレッチで2から4%と少なく触診でも硬くすじばっているように触れることから決して柔軟性の高い組織とはいえない。しかし、神経と周囲の軟部組織の境界面での可動性が神経モビライゼーションによって改善し、可動域が加増したものと考える。臨床の場面では関節可動域の制限がどの構成要素によるものか深く考察し治療手技を選択することが重要と考える。今後は他の手技との組み合わせでの可動域変化を比較検討が必要と考える。
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2002 (0), 557-557, 2003
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
キーワード
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680539166336
-
- NII論文ID
- 130004577228
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可